2018 Fiscal Year Research-status Report
中堅教師のイノベーション能力を高める課題解決型研修モデルの研究開発
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18K02528
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Research Institution | Nara Women's University |
Principal Investigator |
鮫島 京一 奈良女子大学, 教育システム研究開発センター, 特任准教授 (40784707)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 中堅教師 / 構え / つなぐ力 / 課題解決型研修 / ファシリテーション / 省察 / ネットワーク型の学び合う専門職コミュニティ |
Outline of Annual Research Achievements |
研究開発の初年度として次の3点を行った。①教師教育及び研修開発に関する文献研究、②研修プラットフォームの構築、③課題解決型研修を実施した。 最重点領域である課題解決型研修では、研修対象者と相談し、ファシリテーション能力の向上を研修課題とした。第一段階は、5、7、8月にワークショップを行った(各回全国より30名程度の参加)。第二段階は、各職場における実践(9月~翌年1月)と11月23日に「奈良ラウンドテーブル」を開催した(全国より100名程度の参加)。前者については、組織的実践へとつなぐことができた事例も幾つかあったが、全体的には授業や生徒対応のように個人的実践に留まる傾向にあった。そのため、組織的実践の場を意識的に創り出す必要があると判断し、「奈良ラウンドテーブル」をその場として位置づけ、企画段階から当日のファシリテーターまで一つの単位とする研修を展開した。第三段階は、今年度の研修の省察である。2月22、23日に福井大学で開催された「実践研究福井ラウンドテーブル」で実践報告をしてもらった。3月に5名を対象とした反構造化インタビューを行った。 インタビューを分析し、研修成果として以下の二点が浮かび上がった。第一に、ある能力の獲得を個人的実践に留めることなく、組織的実践へとつなぐことが研修の命綱であることが学び取られたことである。ラウンドテーブル、探求型学習、教員研修会など、勤務校における組織的実践の展開が15件あった。このことは「構え」をつくり「つなぐ力」を高めていくという本研究の枠組みに添う成果である。第二に、同僚についてのイメージが刷新されたことである。同僚は職場にいるだけではなく、実践を通じてつながりあうときに同僚となることが学び取られていた。このことは本研究が目指すネットワーク型の学び合う専門職コミュニティの形成に関する実証的裏付けを得たことを意味すると考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
順調に進んだ理由は、研修対象者の要望を大事にしながら研修課題を若干修正したことにある。当初は、研修対象者が職場の実情に即して、「主体的で対話的な深い学び」「ファシリテーション」「カリキュラム・マネジメント」のうちから一つを選択することにしていた。研修対象者と相談したところ、「主体的で対話的な学び」「カリキュラム・マネジメント」については職場や教育委員会による研修会がある。しかし、「ファシリテーション」については学ぶところがない。ファシリテーション能力をしっかりと身につけることができれば、他の二つの課題についても実践的に取り組めるようになる。こうした意見が大半を占めた。そこで、「ファシリテーション」に課題を絞って研修を進めていくことにした。 このように研修課題を一つに絞ったものの、本研究の全体構想を修正する必要はない。ただし、以下の3点については、2年目に若干修正しながら進めたい。①ファシリテーション能力の形成に関する事例収集が不十分となっている。②今年度のインタビュー調査の結果、研修で学んだことが個人的実践レベルに留まる傾向があることがわかった。この事実は、省察の質について吟味する学び合いの場が必要であることを意味する。③2年目に実施する海外調査について、中堅教師の専門職性の発達過程及びそれを支える学び合う専門職コミュニティに関する質的研究の妥当性を高めるために、カナダのRiverdale Collegiate Instituteに加えて、アメリカの高校における現地調査を増やす必要がある(トリアンギュレーションの視点を組み込む)。
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Strategy for Future Research Activity |
2年目は初年度の研究成果から浮かび上がった三つの修正点を踏まえ、課題解決型研修の展開及び事例調査を継続し、研修対象者の語りの分析を通じて、中堅教師の専門職性の発達を促す課題解決型研修モデルのさらなる研究開発をすすめるとともに、そのような研修を支える学び合う専門職コミュニティを形成するための事実や知見を抽出する。そのようにして得られたものを、カナダとアメリカにおける現地調査の結果と比較検討し、研究の質を高めていく。
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Causes of Carryover |
今年度「人件費・謝金」として計上していた直接経費について、使用しなかったことが理由である。こうなったのは、①謝金については、ファシリテーションのワークショップを協働研究開発として展開したために交通費支給のみに押さえることができたこと、②人件費については、資料整理(文字おこし)として計上していたが、インタビュー調査が3月となってしまったために今年度実施することができなかったからである。 次年度については、①については協働研究開発として展開することがないことと今年度以上に専門的知識を必要とするために、②については今年度末に収集した資料の整理を行う必要性があるために、次年度に繰り越すことにする。
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