2021 Fiscal Year Research-status Report
教師教育現場での「対話的身体」の実証、およびその理論化の試み
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18K02531
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
柳瀬 陽介 京都大学, 国際高等教育院, 教授 (70239820)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
長嶺 寿宣 龍谷大学, 国際学部, 准教授 (20390544)
樫葉 みつ子 広島大学, 人間社会科学研究科(教), 准教授 (20582232)
山本 玲子 京都外国語短期大学, キャリア英語科, 教授 (60637031)
横田 和子 広島修道大学, 国際コミュニティ学部, 講師 (80434249)
岩坂 泰子 広島大学, 人間社会科学研究科(教), 准教授 (80636449)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 対話 / 身体 / コミュニケーション / 意味 / 対面授業 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021(令和3)年度の研究実績は、以下の4点でまとめられる。 (1) シンポジウム招待発表:あるシンポジウムから招待を受け、「教育実践を科学的に再現可能な操作と認識することは、実践と科学の両方を損なう」というタイトルで本科研の研究成果の一部を公開した。この発表においては、特に実践者がもつ知の人格的な身体性を強調した。たとえば「学習者をよく観察する」ことも、実践者の情動の状態によって千差万別の行為となる。ゆえに実践者の知は、実践者が自らの人生において情動を整える、つまりは実践者としての人格を形成して初めて発揮されるものである。そのような知の人格的身体性を無視して、授業の方法論さえ伝達したらどんな実践者も同じような実践を行うことができると考えることは間違いであることを説いた。なお新しい試みとして、この発表のスライド解説動画を下に掲載しているブログにおいて公開している。シンポジウム参加者にだけにかぎらず広く一般に研究成果を公表するためである。 (2) 研究会招待発表:ある研究会に招待され「授業というコミュニケーションの計画性と偶発性」というタイトルで研究成果の一部を公表した。偶発性を活かして授業をコミュニケーションとするためには身体表現が鍵となることを説いた。この発表内容はひつじ書房から2022年9月に発刊される書籍の1つの章として掲載される予定である。ちなみにこの研究発表もスライド解説動画をブログで公開している。 (3) 新たな理論的基軸の発見:アガンベンの「身体の使用」の概念を用い、身体をさまざまな「私」の概念と対比させて理解し分ける理論指針を得ることができた。この理論的基軸の速報的報告は下に掲載しているブログで公開している。 (4) シンポの計画:上の理論的新展開も踏まえ、2022年8月末に本科研の成果を発表するシンポジウムを開催する計画をメンバーと立案した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2021年度は2つの発表を行いそのうち1つは近いうちに書籍の一部として公開される予定だが、まだ本科研を総括できるだけの発表・公刊はできていない。 また理論面での展開は順調に進んでいるが、実際の実証的な証拠の提示においては難航したままである。これはコロナによって対面授業の実施や観察が困難であったことも1つの要因であるが、そもそも授業における対話的身体の表現は文脈の中に位置づけられ、かつ数分から数十分といった長い単位で表されるものであるため、切片的なデータを「証拠」とすることが困難であるという根本的な理由もある。さらに対話的身体の表現は、それを見る者の解釈能力にも依る相互主観的な現象であるという原理的な要因もある。したがって本研究を、自然科学的な「実証的研究」として、観察対象がを観察主体から独立した存在物として無人格的に観察する研究とすることはできないと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度の8月末のシンポジウム開催に向けて現在、メンバー内で調整を進めている。だが、これまで数回の会議では、一1回のシンポジウムで本科研を総括をするよりも2回に分けてシンポジウムを開催するべきではないかとい意見が出ている。総括を、身体性の基本的な意味(皮膚を外郭とする身体)と拡張的な意味(使用されるまで道具も含めた身体)の2つに分けて行うべきという意見である。今後、話し合いを続けてその方向性を決定する予定である。なおシンポジウムを2回行う場合は、本科研を再延長するかもしれない。シンポジウム開催だけでなく書籍の公刊までをこの科研の仕事と考えているからである。
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Causes of Carryover |
やはりCovid-19の蔓延という理由が一番大きい。さらに、研究代表者が、担当授業(英語ライティング)で学生が機械翻訳を使用することが無視できない段階になったので、機械翻訳の利用についての研究を行い、学内で2回の研究発表と1編の実践報告、および学外で1回のシンポジウム招待講演を行ったことで、本科研に対して使える時間が少なくなった。また研究代表者は、所属機関ウェブページ (https://www.i-arrc.k.kyoto-u.ac.jp/english_jp) 大幅リニューアルの責任者となり、特に英語ユーザーインタビューや英語学習相談FAQの作成のために多くの時間を費やさざるをえなかったことも本科研の研究の遅れにつながった。 今年度は、上記のシンポジウム開催に向けて効果的な予算執行を行う予定である。
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