2019 Fiscal Year Research-status Report
実習指導教員の学習を促す教育実習指導モデルの開発研究
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18K02562
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Research Institution | Fukushima University |
Principal Investigator |
坂本 篤史 福島大学, 人間発達文化学類, 准教授 (30632137)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
三島 知剛 岡山大学, 教師教育開発センター, 講師 (10613101)
一柳 智紀 新潟大学, 人文社会科学系, 准教授 (30612874)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 教育実習 / 実習指導 / 教師の学習 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度の研究実績として、以下の3点がある。 第1に、教育実習中の指導教員に協力を得て、実習期間の各週末に実施したインタビュー調査について、実習指導の時系列に即した実習指導教員の認識に関する小学校教員計2名分のデータを整理、分析した点である。本年度までにすでに得られていた1名分のデータ分析カテゴリを基に、追加した1名分のデータを分析し、必要に応じて新たなカテゴリをボトムアップに生成した。その結果から、特に第1週における実習指導教員と実習生の協働的な関係づくりに着目した結果を、9月にオランダ・アムステルダム で開催されたWorld Association of Lesson Studies International Conference 2019(世界授業研究学会)にて発表した。そこでの議論により、「協働」の概念についての重要性が海外の研究者にも着目されたと同時に、教育実習における「協働」の概念についての検討の必要性が明らかになった。 この点を踏まえつつ、第2に、上記のインタビュー調査結果についてさらに比較分析を進め、実習指導教員、実習生、子どもの三項関係のあり方について2名の指導教員で対照的な結果が得られ、新たな知見を得た。本分析の結果は、3月に開催予定であった日本発達心理学会にて発表申請し認められた。 第3に、小中学校において、実習指導経験のある教員に実施した質問紙調査の分析から、教育実習の指導教員の学びと、教師としての力量形成への影響について、制度的前提の異なる小学校と中学校での比較も含め量的分析を行った点である。その結果、小学校と中学校に共通して実習指導の形態と学びとの相関関係が示され、一方で、小中において指導形態と力量形成との相関関係には違いが見られた。この結果は、論文にまとめ投稿中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
おおむね計画通りに進んでいると判断した理由は以下の3点がある。 第1に、研究初年度に引き続き、今年度は、国内学会発表1件、国際学会発表1件申請中1件、論文1件投稿中であり、国内外の研究者の議論を踏まえて、分析の方向性や得られた知見の理論的意義について、大きく洗練させることができた点である。初年度に引き続き、月1回のオンラインによる研究会議を効果的に活用することで、計画的な情報共有、データ解釈の検討、発表内容、原稿の検討、スケジューリングを進めることができた。 第2に、教育実習指導教員計2名分の貴重なデータについて、相互に比較しながら、コーディングスキーマをアップデートした点である。とりわけ、学会発表での議論を踏まえて「協働」の概念に着目することで、2名の実習指導教員の実習指導における特徴的な差異や、それによる指導教員としての学びの相違について明らかになってきた。本研究は、教育実習指導を通した実習指導教員の学びという、経験や理論的には想定されていた考え方を、実証データに基づき解明するものである。その意義を踏まえ、慎重に実証データの分析を重ねたことが研究の進展につながっていると考えられる。 第3に、インタビュー調査を慎重に進めることで明らかになった知見を踏まえ、質問紙調査の分析結果との対応を検討しながら分析を進めたことである。それにより、量的分析による一般性のある知見を踏まえて、質的分析の解釈を深化させることができた。実証データを3名の研究者の視点で丁寧に解釈をする過程を重ねることで、分析視点を明確にすることができている。 ただし、この度の新型コロナウイルス対応により、学会発表が一部実施できなかった点は、本研究のデータ解釈における進展への支障となった点は無視できない。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度以降に向けた研究の推進方策として3点述べる。 第1に、小学校教員2名分のインタビューデータ分析と質問紙調査の分析結果を組み合わせて、学会発表や論文にまとめることである。量的分析結果に基づく一般性の高い知見から、質的データの分析により知見の精緻化を行う。今までの研究で焦点となった「協働」の概念に着目した試行的な分析により得られた結果を、年度末にアメリカ・サンフランシスコで12月はじめに開催される予定だったWorld Association of Lesson Studies International Conference 2020にて発表申請をした。しかし、この度の新型コロナウイルス感染症への対応により開催が中止となったことから、早急に対応を切り替える必要がある。研究最終年度にあたり、学会発表を優先させるよりも、丁寧なデータ分析を重ねて、論文として知見をまとめることを目指す。 第2に、実習指導教員の学びのあり方から、実習指導のデザインにつなげる知見を創出することである。今までの研究から、実習指導を通して指導教員の省察が促されることや、実習生との協働を通して力量形成につながることなどが示された。新型コロナウイルス対応により2020年度は新たなデータ収集の見込みが厳しい状況にある。したがって、2020年度は今まで得られた知見を基に実習指導のあり方に関する文献と結び付けて、実習指導ならではの指導教員の学びと、それをもたらす実習指導デザインの具体化を目指す。ここで得られた結果については、学術論文としてまとめる予定である。 第3に、本研究で得られた知見や、実習指導のデザインについて、実際に学校現場での実習指導経験のある教員からのレビューを得ることである。その結果を踏まえて、現場で応用可能な知見をまとめ、今後の介入研究につなげていく。
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Causes of Carryover |
2019年度3月に、新型コロナウイルス対応により参加者を集めての学会開催が中止となり、予定していた旅費が支出されなかったため。 移動を制限された中での研究のための文献購入や環境整備、また、2020年度に状況が改善し次第、出張等に用いる。
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