2018 Fiscal Year Research-status Report
大根等スライスディスクを用いた新しい浸透圧実験法の確立と教材化
Project/Area Number |
18K02566
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Research Institution | University of Fukui |
Principal Investigator |
藤井 豊 福井大学, 学術研究院医学系部門, 教授 (80211522)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 大根 / 野菜 / 浸透 / 教材 / アクアポリン / 阻害剤 / 銀イオン / 水銀イオン |
Outline of Annual Research Achievements |
大根1本先端から首までスライスしディスクに加工して一様な厚みと重さのものを選んで実験しても、ディスク毎の浸透特性に大きなバラツキが生じる。その理由を明らかにする目的で、大根を根の先端部(A)から首部(F)までを6つに区画して各部位(A, B, C, D, E, F)の浸透特性を評価した。水に浸したときの浸透速度と程度は、部位A、Bで高く、部位C、Dと下がり部位Dで最少となり、部位E、Fに向かってやや上昇する傾向が観られた。2ミリモル濃度でアクアポリン阻害剤の銀イオンは部位C、Dの浸透を強く阻害し、部位E、Fから部位Aの順で阻害が弱くなった。一方、水銀イオンでは、同じ濃度の銀イオンほど強い阻害は無かったものの部位AとDで大差はなかった。以上、大根の部位により浸透特性に明らかな相違が認められた。比較的特性の似た中央部から首部の部位C、D、Eを使用することでバラツキの少ない実験教材の開発が可能と思われる。 野菜は1年中安価に入手できる。そこで、キュウリ、エリンギ、ニンジンおよびトウガンをスライスディスクに加工しそれぞれ浸透特性を調べた。キュウリとニンジンは皮を剥き輪切りスライスとした。トウガンは外皮を削ぎ短冊状にスライスした。エリンギは柄を輪切りスライスとした。キュウリ、ニンジンとトウガンは水の浸透が早く10分以内で完了した。銀イオンは、キュウリ・ニンジンのアクアポリンに極めて強い阻害効果を示したが、トウガンには弱く阻害した。一方、水銀イオンは、キュウリには極めて強い阻害を示したが、ニンジンは大根と同程度の阻害に留まった。また、トウガンは非常に弱い阻害しかなかった。エリンギは、両金属イオンともに浸透を促進した。特に銀イオンで顕著であった。真菌類における奇妙な浸透特性はどのようなメカニズムによるのか興味深い結果となった。以上、野菜の種類により浸透特性が大きく異なることが判明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究成果は、福井県立藤島高校のスーパーサイエンスハイスクールSSHのアドバンスコースとして、また医学部1年次生の実習として実施研究されたものである。SSHの生徒たちは、大根部位別浸透特性評価実験プロトコールに従って研究課題をこなした。大根スライスディスクの加工、実験、記録、考察およびまとめをおおよそ50分以内で終了した。今回のプロトコールを基に、一般の授業で使えるように修正等を行い次年度での検証を行う段階に入ったといえる。また、医学部の実習では、午後からの2限分の時間をかけた有意義な実習が可能であることを確認できている。引き続き次年度での実施に向け実習マニュアルの更新に努めている。大根は加工のし易さなどの理由で最も優れた実験材料であるが、多様な野菜の研究からそれぞれ異なった浸透特性が確認されたことは非常に大きな成果と言える。この特徴を活かせば、それぞれの野菜に最適で特性を活かした多様な実験教材の開発が可能になるものと期待できる。特に、キノコの浸透特性は植物とはかなり違っている。この違いを研究することで単に浸透現象の教材だけでなく、アクアポリンの新しい阻害剤の開発につながる可能性も考えられ、研究の進展に幅ができたことになる。予想以上に面白い新事実が明かされてきて大きな成果である。
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Strategy for Future Research Activity |
H30年度の研究から、大根の先端部A、Bと首部Fを除く、中央部C、DおよびEの部位からスライスディスクを加工して使用する浸透圧実験法プロトコールの作成を行う。秤量機器は通常の化学物理分野の実験備品である。しかし、振とう機は通常の実験備品ではないのでこれを使わないプロトコールとする。ガラス器具類として、100mLビーカー数個、ピンセット、およびストップウオッチなど。台所用品のスライサー、型抜き、ピーラー、およびペーパータオルなど。試薬として非電解質のスクロース、電解質の食塩をそれぞれ用いる。課題研究のテーマとして、(1)ファントホッフの式から細胞の浸透圧濃度(オスモル濃度)と浸透圧の測定法、(2)アレニウスの電離説の検証実験法、(3)浸透とアクアポリンの阻害実験法などがあげられる。実験精度の問題から、演繹法によるプロトコールが適している。(1)のオスモル濃度の測定がその適応である。大根細胞のオスモル濃度を挟んで薄いスクロース溶液2種と濃い溶液2種を用いて、浸透による重量変化が逆転するポイントをグラフ上から求めて細胞のオスモル濃度を測定する実験法である。この実験法が確立されれば、(2)の電離説の検証実験法に応用してプロトコールの作成が可能となる。一方(3)のアクアポリンの阻害については、現在水銀イオンや銀イオンのような重金属イオンしか知られておらず廃棄物処理の観点からあまり望ましくない。炭酸脱水酵素阻害剤であるアセタゾラミドが人のアクアポリンに阻害効果があるとの情報を入手したので試したが現在までのところ大根アクアポリンを阻害するデータは得られていない。今後、重金属イオンに替わる阻害剤の情報等を集めて検討したい。
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Causes of Carryover |
初年度は教材開発に必要な秤量機器および振とう機器類の高額機器の購入を計画していたが、医学部実習経費として支出できたため執行せずに済んだ。予想もしなかった新しい事実が発見されたので、研究の更なる進展のためにアクアポリン等遺伝子解析用試薬類の購入を計画している。
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