2019 Fiscal Year Research-status Report
大根等スライスディスクを用いた新しい浸透圧実験法の確立と教材化
Project/Area Number |
18K02566
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Research Institution | University of Fukui |
Principal Investigator |
藤井 豊 福井大学, 学術研究院医学系部門, 教授 (80211522)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 浸透圧濃度 / 体液 / 細胞内液 / 大根 / 二ホンアマガエル |
Outline of Annual Research Achievements |
【大根スライスディスクの厚みと浸透特性】厚みと浸透特性との関連を正確に把握するため、市販の電動スライサーを使い、厚さ1㎜と2㎜で検討した。その結果、厚さ1㎜と2㎜で重量は約2倍の差があるものの、水につけて10分後の吸水量はほぼ同じであった。このことから、水の浸透速度は、ディスク表面積に比例するものと結論される。従って、相対重量変化率は、ディスクが薄いほど大きくなるため、一定の厚みのディスクを切り出し易くするため大根を円筒形にピーラー等に加工する手順を取り入れる必要がある。 【細胞内液・体液浸透圧濃度測定法の開発】2mm厚大根ディスクを調整後直ちに、0, 0.1, 0.2, 0.3, 0.4 Osm/Lスクロース溶液に浸して水の相対吸脱水率を測定した。すると浸透圧濃度の横軸と交差する直線関係が得られる。その結果から大根の浸透圧濃度は以外にも高く生理的食塩水とほぼ同じ0.31 Osm/Lと求められた。また、キュウリとニンジンの浸透圧濃度は0.25および0.34 Osm/Lと求められた。野菜はみずみずしいものから萎びたものまであり、各状態の浸透圧濃度を比較することも重要な教育題材となる。 【動物を用いた実験法の開発】ニホンアマガエルの吸水活動は主に腹部皮膚から行われる。直径10cmのシャーレにキッチンペーパーを敷き、0, 0.133, 0.267, 0.400 Osm/Lスクロース溶液を浸み込ませてアマガエルを鎮座させて蓋をする。キュウリとほぼ同じような相対吸脱水率直線が得られ、ニホンアマガエル体液の浸透圧濃度が0.22 Osm/Lと求められた。人体液の浸透圧濃度の約2/3程度となり、両生類の浸透圧濃度は哺乳類と比較して低いことが知られているがその通りの結果となった。以上より、本浸透圧実験法は植物のみならず動物を用いても可能であることを実証できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
【野菜ディスク調整法の確立】大根に限らず野菜スライスディスクの厚み均等化は、データのばらつきを最小化するために最も考慮すべき課題である。一般家庭で使う野菜スライサーでは、約1mm厚大根スライスを調整できるが、予め一定の太さの円柱に加工したものをスライスすると均一なディスクを作成できる。また、キュウリやニンジンでは太さが一様なものを購入してディスクを作成することが寛容である。使うディスクは同じ重さの物を選別して使用するとデータのばらつきの少ない実験が可能である。2㎜厚のディスクを作成するには包丁で輪切りにするしかないが、慣れるとうまく均一にカットできる。この場合は大根ではなくキュウリが調整し易い。 【組織液等浸透圧濃度測定法の確立】従来法である事前の真水暴露ディスクを用いる実験法から、作成直後の無処理ディスクを用いることでも、相対吸脱水率と浸透圧濃度との直線関係を確認できたことから、事前準備・実験時間の短縮が図られ50分授業に十分活用されるプログラムが出来上がった。さらに、野菜の細胞内浸透圧濃度を求めることができる内容へと拡充されたことには大きな教育学的意義がある。ほぼ当初の予定通りの成果が上がった。当初の予定では、野菜など植物を用いた実験系の開発であったが、動物の細胞膜を利用した実験系を構築できないか挑戦してみた。卵の卵殻膜を使う例もあるが未変性の状態で取り出すことが非常に難しい。そこで、個体そのものを使ってできないか試案した結果、ニホンアマガエルでも同様に体液の浸透圧濃度を求めることができたことは、予定にない画期的な成果といえる。皮膚は単純な構造ではなく、多様な細胞から構成されているため、単純な浸透現象は観察されないであろうと予想していたが、その予想は完全に覆された。
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Strategy for Future Research Activity |
【ニホンアマガエルを用いた浸透圧実験法の実践と改善】日本には、アマガエル科として南西諸島に生息しているハロウウエルアマガエルと九州から北海道まで生息しているニホンアマガエルの2種がいる。冬の冬眠期を除けば日本全国どこでもアマガエルを実験動物として使うことができる。そこで、今回開発してアマガエルを用いた浸透圧実験法を広く教育現場へと普及を図るため、令和2年度に「ひらめき☆ときめきサイエンス」で「水の通り道アクアポリンの性質ーカエルはどうやって水を飲むのかなぁ~-」と題して社会還元普及活動を行う予定であるが、現在のところコロナ禍の影響で開催が危ぶまれている。感染リスクを回避してぜひ実施したく現在計画の練り直しを行っている。また、これらの研究成果を論文としてまとめ、学会等で積極的に発表したい。 【アクアポリンの新規阻害剤のスクリーニングへの応用】アクアポリンの阻害剤は利尿作用が期待できるため、医薬品開発の対象となっている。しかし、現在のところ有効な阻害剤は水銀イオン、銀イオンやマンガンイオンなど重金属イオンや一酸化窒素NO剤だけしか知られていない。重金属イオンは強力に阻害するが重金属毒性が強いので臨床には使えない。漢方の五苓散には利尿作用が知られているがその薬効成分はマンガンイオンのようである。しかし、漢方には五苓散以外にも利尿作用を有する方剤や生薬が知られているので、これらの成分にアクアポリンの特異的な阻害剤がある可能性は残っている。そこで、漢方生薬エキス中の阻害剤をスクリーニングする目的で、野菜ディスク・アマガエルを用いた浸透圧濃度測定法を応用した研究を計画している。
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Causes of Carryover |
研究がおおむね順調に進んだこともあり、実験機器の故障等の不具合もなかったことから、更新等の支出がなかったことが大きな要因である。しかし、次年度では新たにアクアポリン阻害剤の研究のための実験機器の更新等を計画している。
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