2018 Fiscal Year Research-status Report
発見資料に基づく昭和戦前期長崎県対馬における小学校国語科読み方教育の研究
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18K02569
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Research Institution | Gifu University |
Principal Investigator |
安 直哉 岐阜大学, 教育学部, 教授 (30230204)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 国語教育史 / 読み方教育 / 教材研究史 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の中心資料は、長崎県対馬下県郡厳原町立厳原尋常高等学校編纂『小学校読方教授細目』である。同書には、国定第三期国語教科書(『尋常小学国語読本』)の全巻全課の教授細目が収められている。本年度は、この『尋常小学国語読本』に準拠して出版された他の教授法書や教授細目を収集し、検討を加えた。 一方、研究の成果としては、国定第三期国語教科書、国定第四期国語教科書ならびに国定第六期国語教科書に継続掲載された長寿教材「小さなねぢ」に焦点を絞って、同教材の解釈史を追った。その研究においては、長崎県対馬下県郡厳原町立厳原尋常高等学校編纂『小学校読方教授細目』も重要な資料として位置づけられることが明らかとなった。 「小さなねぢ」には原拠がある。もとはロシアのウオルホーフスキイによって著された創作童話であった。小さななぢが時計屋の仕事部屋を観察するくだりが相当長く綴られていたが、教科書に掲載されるにあたって、その部分は削除されてしまった。時計屋の仕事部屋の描写によって「時間」の概念を考えさせる意味が含まれていたが、その含意も削除されてしまった。また、時計屋の仕事熱心な様子の描写も、教科書に転載されるにあたって薄れてしまっている。仕事への熱意の背景にはプロテスタントの精神の浸透があった。 「小さなねぢ」は最初、『尋常小学国語読本』巻十二に掲載された。巻十二は小学校六年生後半期に使用される。つまり義務教育の最後の時期に学ぶ教材であった。ここに本教材採録の大きな意味があった。義務教育修了後は、中学校等の上級学校へ進学する者と、進学せずに家の仕事を手伝ったり就職したりする者とに分かれる。進学できなかった子の心には羨望と諦観の念が巣食う。「小さなねぢ」からは、どのような仕事にも意義があるのだという主題が読み取れる。そのことによって、こうした羨望と諦観の無念さを解消する意味があった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
教材「小さななぢ」を事例としながら、長崎県対馬下県郡厳原町立厳原尋常高等小学校編纂『小学校読方教授細目』が持つ国定国語教科書教材研究史上の意味を明確にできた。特に他の教授法書や教授細目と比較することによって、厳原尋常高等小学校編纂『小学校読方教授細目』の独自性を描出することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後研究の進路は大きく二つに分かれる。第一は、長崎県対馬下県郡厳原町立厳原尋常高等小学校編纂『小学校読方教授細目』そのものを研究対象として、その成立の背景や経緯、同書の特色などの解明にあたることである。 第二は、「小さなねぢ」の考察と同様の手法を継承し、ある特定の教材に絞って、その教材解釈史の中で、厳原尋常高等小学校編纂『小学校読方教授細目』がどのような位置づけを得られるかを考察することである。
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Causes of Carryover |
本研究の経費の多くは、古書の購入に充てられる。しかし本年度は古書の購入が予定より下回った。ほしい古書は沢山あるのであるが、そうした古書を古書市場から探し出すことができなかった。 次年度は古書の探索をさらに精力的に行い、狭い意味の国語科教育に限らず、国語教育史関係図書、教育学・教育史関係図書、長崎県教育史関係図書等の多くの古書を購入することで研究資料の充実に努め、視野の広い研究成果を構築していきたい。
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Research Products
(1 results)