2020 Fiscal Year Annual Research Report
A Study of Reading in Primary Education in Tsushima before the Second World War
Project/Area Number |
18K02569
|
Research Institution | Gifu University |
Principal Investigator |
安 直哉 岐阜大学, 教育学部, 教授 (30230204)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | 国語教育史 / 教材研究史 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、国定教科書教材「鐵眼の一切經」について総合的に考察を行った。「鐵眼の一切經」は国定第三期国語教科書に掲載された。一切經は仏教に関する書籍を集めた一大叢書である。幾千巻にものぼるため、その出版は容易ではない。僧鐵眼は再三の困難にも屈することなく、ついには一切經の出版を完成させたという話である。長崎県対馬にあった厳原尋常高等小学校が編纂した『小学校読方教授細目』(1931年)では、教材「鐵眼の一切經」の「要旨」を次のようにまとめている。 「鐵眼の一切經を出版した話によつて、その忍耐と慈悲心とを知らしめて之に対する敬慕の情を起さしめ、底力のある根気を養成する。」(『小学校読方教授細目』尋常科第六学年91頁) このように厳原尋常高等小学校編纂『小学校読方教授細目』でも言及された「忍耐と慈悲心」ということが本課の主眼として定着していく。 1941(昭和16)年の国民学校開設と同時に国定教科書の改定も行われ、「鐵眼の一切經」は、国語科の教材から国民科修身の教材に変わった。国民科修身に変わっても、その主眼は「忍耐と慈悲心」であろうと思われたが、実際はまったく違った主旨の教材として扱われた。鐵眼は三度も大掛かりな喜捨を募集したのであるが、そちらの方に主眼が向けられた。つまり寄附(献金)の奨励である。「鐵眼の一切經」の国民科修身教師用書には「義捐金募集など適当な方法によつて、義捐につとめること。/恤兵金をよろこんで出すこと。」(文部省(1943)『初等科修身 四 教師用』221頁)と書かれた。戦時下には国民に献金が求められ、教材『鐵眼の一切經』もそのための教材として変貌させられたのである。
|
Research Products
(1 results)