2018 Fiscal Year Research-status Report
儀式唱歌が作った子どもの心と身体 ―勅語奉答歌を中心とした歴史的・社会学的研究
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18K02639
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Research Institution | Gakushuin University |
Principal Investigator |
嶋田 由美 学習院大学, 文学部, 教授 (60249406)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
有本 真紀 立教大学, 文学部, 教授 (10251597)
権藤 敦子 広島大学, 教育学研究科, 教授 (70289247)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 儀式 / 儀式唱歌 / 《勅語奉答》 / 音源 / 聴き取り調査 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究開始にあたり4月中に初回の研究会を持ち、そこで昭和前期に小学校時代を過ごした方々への儀式そのもの、および儀式時の唱歌に関する思い出やそのための歌唱指導の実態などの聴き取り調査の方法を検討し、《一月一日》《天長節》などの儀式唱歌と《明治節》の歌唱音源を作成し、音源を流し各曲についての聴き取りも行うことを決定した。なお、《勅語奉答》の儀式唱歌に関しては冒頭の歌詞が「あやにかしこき」および「あな たふとしな」の二種類の音源を作成した。 聴き取り調査は、4月末の北海道における5名への聴き取りから開始され、平成30年度中には三者が行った調査は43名分になり、当初の計画より多くの方々への調査が行えた。調査対象者は北海道(5名)、沖縄県(18名)、長野県(4名)、東京都(4名)、鳥取県(6名)などに及んだ。1回の聴き取りは調査対象者にもよるが1時間から1時間30分程度を要し、丁寧な聴き取りを心がけた。またその際には個人情報の秘匿など倫理に関することも書面と口頭の両方により確認を行った。 この聴き取りの過程で、《君が代》《一月一日》《天長節》の儀式唱歌はほぼ全員が歌ったと記憶しているのに対して、《勅語奉答》に関しては歌った記憶のある人が僅かであることが明らかとなった。加えて、《勅語奉答》が歌われた場合には、「あな たふとしな」の《勅語奉答》が歌われる傾向にあったことも認められた。 一方、文献資料調査に関しては、当該年度には、学校に保管されている諸資料(和歌山県等での調査)、各校の記念誌(沖縄県等での調査)、学童疎開日誌(奈良県等での調査)などから儀式や唱歌の授業に関する記述を集約的に収集した。 初年度の研究に関しては平成30年10月に開催された日本音楽教育学会においてポスター発表の形で中間報告を行い、様々な示唆を得ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の初年度の研究については概ね計画通りに推進することができた。特に昭和前期に小学校時代を過ごした方々への聴き取り調査に関しては、研究者仲間の関心も高く多くの紹介を受けることができたことにより、当初の計画であった10~15名程度よりはるかに多くの高齢者、計43名への聴き取りを行うことができた。しかし、その調査の過程では、昭和前期という研究対象時期の問題もあり、隣の校区でも唱歌教授の内容や実際、儀式時に歌われる唱歌の扱いなどが様々であることが明らかとなり、可能な限り多くの聴き取り調査を実施することの必要性が再確認された。 また初年度には儀式唱歌等の合計9曲の音源を作成し、それらを聞いていただくことによって各曲の歌唱経験の有無やそれらの指導の実態について聴き取りをする方法を採って調査を行ったが、実際には対象者は、上記の曲以外にもたくさんの歌の記憶を持っており、それらの歌の音源を作成して歌の記憶の補助も得ながら聴き取り調査を行うことがより有効だと考えるに至った。そこで第2年次には追加の音源作成も検討する。 文献資料調査に関しては、全国の公立図書館の郷土資料室等に各自治体の教育史資料や学校の記念誌などが所蔵されており、また奈良県立図書情報館の戦争体験文庫などに各地で刊行された戦時期の学童や教師が記述したものが収集されていることが明らかとなり、何回かにわたって資料調査を行っている。
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Strategy for Future Research Activity |
第2年次も初年次の研究方法を引き継ぎ、高齢者への聴き取り調査と文献資料調査を中心に研究を推進する予定である。初年度の聴き取り調査の実施経験から、単に儀式用唱歌の音源のみを用いることよりも、当時の学校教育で扱われた他の唱歌教材や広く子どもに歌われていた童謡や軍歌の類も音源として用意することが、当時の歌唱に関する記憶を語って頂くに際して有効ではないかと考え、新たな音源作成のための唱歌や軍歌類の選曲を開始したところである。 さらに聴き取り調査に関しては初年次の調査で、勅語奉答歌が歌われる際には、明治26年に儀式用唱歌として制定された中の1曲であった《勅語奉答》(冒頭歌詞:あやにかしこき 作詞:勝 安芳 作曲:小山作之助)よりも、その後に作られた《勅語奉答》(冒頭歌詞:あな たふとしな 作詞:中村秋香 作曲:小山作之助)の方が採り上げられる傾向にあったことも明らかとなった。そこで第2年次は、この2曲の《勅語奉答》の歌に焦点を絞りつつ、学校日誌や当時、刊行された唱歌教材集などの調査を行って、これら2曲の《勅語奉答》の歌の扱いの実態を解明することを中心に文献調査を進める。 初年次の聴き取り調査では、北海道や沖縄など遠隔地で多くの調査協力者を得ることができた一方で、四国や東北地方などでの調査が不可能であった。そこで今後はこれらの地域で協力者を求め、調査範囲を拡大していく計画である。また、資料的制約が大きい学校日誌等の調査に関しても今後、各自治体の教育委員会や学校現場への直接的な依頼を行い、調査範囲を広げて精力的に実施していく予定である。 なお第2年次中間の令和元年10月には、日本音楽教育学会において口頭発表を予定しており、そこでの成果を踏まえて、年度内に所属大学の紀要への論文投稿も計画している。
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Causes of Carryover |
研究代表者の嶋田の件は、当初、3月下旬に関西方面で聴き取り調査を予定していたが、対象者の都合で調査が第2年次に延期になったことによる。あらためて先方と日程調整を行い、令和元年5月末に調査が可能となり、その際の交通費等にあてる予定である。 研究分担者の有本の件は、3月に行った沖縄調査が予算より少し安く行えたが、学内領収書締め切り日の関係で残額を執行できなかったことによる。第2年次の調査の際の旅費にあてる予定である。
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