2019 Fiscal Year Research-status Report
儀式唱歌が作った子どもの心と身体 ―勅語奉答歌を中心とした歴史的・社会学的研究
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18K02639
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Research Institution | Gakushuin University |
Principal Investigator |
嶋田 由美 学習院大学, 文学部, 教授 (60249406)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
有本 真紀 立教大学, 文学部, 教授 (10251597)
権藤 敦子 広島大学, 教育学研究科, 教授 (70289247)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 儀式 / 儀式唱歌 / 《勅語奉答》 / 学校文書 / 式次第 / 聴き取り調査 |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度に引き続き、戦前の学校教育の諸儀式の中で儀式唱歌がどのように位置づけられていたのかを、地方教育レベルにおける史資料収集、および昭和前期に小学校時代を過ごした人々への聴き取り調査の2つの側面から研究を推進した。 一点目の史資料収集に関しては、各地での教育の実態を知るために京都市立学校歴史博物館をはじめとして、鳥取・沖縄・弘前・松本・奄美など全国の公立公文書館や図書館における調査を推進した。本研究に着手以来2年間の調査の結果、儀式次第の中で《君が代》や天長節や紀元節などの祝祭日に即した儀式唱歌の位置づけは明らかとなったが、一方で、儀式唱歌《勅語奉答》に関しては、勅語奉読のあとに歌われることが求められていたはずではあるが、次第中にその表記がないものも多く、儀式歌としての位置づけや、儀式に向けての指導の実態については更なる史料調査や聴き取りによって解明していく必要性が認められた。 二点目の聴き取り調査に関しては、当初予定していた人数をはるかに超える対象者を、北海道から鹿児島・長崎・大分などの九州地区という広域にわたって得ることができ、精力的に調査を行えた。令和元年度中に行えた60名弱の80歳代後半以上の方々への聴き取りを初年度実施分と合わせるとすでに100名超の方々の戦前の儀式や唱歌教育に関する語りの蓄積がある。 しかしながら一人ずつの長時間にわたる聴き取り結果からは、出身小学校によって儀式の様相の細部が様々であり、特に《勅語奉答》の儀式唱歌の扱いに関しては、隣接する小学校間でも大きく異なっていたことが明らかとなった。即ち、殆どの対象者が2種類の《勅語奉答》を全く聞いた覚えがないという中で、そのどちらかが徹底して指導された形跡のある学校もあり、その背景の分析に関しては今後の検討課題である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
精力的に全国の公立図書館等で史資料調査を行った結果、学校文書の調査の必要性がより鮮明に浮かび上がり、研究自体が加速度的に進化される兆しを得ることができた。また昭和前期に小学校時代を過ごした方々への調査に関しても、調査対象者からの紹介などもあって全国各地で当初の予定よりも遙かに多い聴き取り調査を行うことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度に引き続き令和元年度も順調に研究課題申請時の研究計画に則って、研究を推進することができたと考えており、令和2年度もその手法で推進を考えている。一方で、コロナ禍の情勢が見通せない面もあり、仮に高齢者への聴き取り調査を進めにくい場合には、学校文書の調査を重点的に行う必要を感じている。令和元年度には京都府、長野県、青森県などの郷土資料の調査で、一つの学校が保管していた戦前の学校文書を網羅的に調査する機会を得られたが、それらの学校文書の分析から明治20年代の儀式規程制定と儀式唱歌制定以来、日露戦争期に及んで学校の中で儀式的行事が増加していく様相が浮かび上がり、軍隊、国家や学校が儀式を通して結びつけられていく経緯を確認することができた。このような明治後半期からの学校における儀式のあり方が、聴き取り対象者が語る昭和前期の学校という場を使った英霊出迎え式や出征兵士の見送り式の基盤を作ったとも考えられる。 そこで令和2年度には高齢者への聴き取り調査の機会を得つつ、学校文書の保存状況の調査と各校への調査依頼を進め、学校日誌や職員会議録などの文書類から儀式における儀式唱歌の扱いに関する資料収集とその分析を進める予定である。 その結果は、令和2年10月に開催される日本音楽教育学会で研究分担者の有本が筆頭発表者となり口頭発表を行う予定である。なお当初予定していた令和2年度中のシンポジウムの形態による研究成果発表については、3名が主学会と位置づけるこの日本音楽教育学会大会がコロナ禍によるWeb開催の形をとることに伴い、共同発表の場が設定されなくなったこともあり令和3年度への延期を検討する。
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Causes of Carryover |
3月中旬からのコロナ禍による地方の公立図書館の休館措置により予定していた資料調査が行えなくなったが、学内領収書締め切り日の関係で残額全部を執行できなかったことによる。第3年次の調査費用にあてる予定である。
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Research Products
(4 results)