2019 Fiscal Year Research-status Report
学校音楽カリキュラム経験の国際比較―教科学習経験産出装置としての学校音楽文化研究
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18K02643
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
笹野 恵理子 立命館大学, 産業社会学部, 教授 (70260693)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | カリキュラム経験 / 学校音楽 / 学校音楽文化 / 国際比較 / 潜在的カリキュラム / カリキュラム社会学 / 学校音楽行事 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、学校音楽カリキュラム経験の国際比較研究を企図したものである。学校音楽カリキュラムは、当事者である子どもに実際にどのように経験されるのか。この問いに支えられて、本研究の目的は、学校音楽カリキュラム経験を解明することにある。すなわち、本研究の全体構想は、学校音楽カリキュラムを、「文書化」され「計画化」された紙の上のレベルでなく、学習者の経験のレベルから把握しようとする試みである。 申請者は、これまでの研究において日本の子どもの学校音楽カリキュラム経験として、「集団的協同性」の特徴を実証的に明らかにしてきた。そしてその教科学習経験は、学校の多様な音楽文化の相互作用から編み直されることを仮説として指摘した。本課題においては、上記の日本の特質をより相対的な視野から検証し、仮説を強固なものとするため、国際比較の観点を導入して、研究を展開、発展させようとするものである。 2019年度の実績は大きく次の3点があげられる。 1つめは、国際比較研究をおしすすめるため、「制度化されたカリキュラム」について、韓国、中国の初等、中等教育課程を分析した。両者教育課程の翻訳はすでに終了しており、文書化レベルのカリキュラム比較について、2020年度内に論文投稿予定である。欧州圏のイタリア、ドイツの教育課程については、現在翻訳作業中であり、2020年度には翻訳終了予定である。 2つめは、欧州圏で比較対象としているイタリア、ドイツについて、日本語補習校を中心にインタビュー調査を実施した。 3つめとして、最も大きな成果は、日本の学校音楽のカリキュラム経験を構成する実証的理論を整理したことである。この成果は、近々刊行予定であるが、この成果を仮説とし、比較対象として選定したフィールドデータを検討することで、より厳密な理論モデルを構築したい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年(2018年)度は介護の事情が生じたが、事由が消滅し、2019年度はおおむね順調に進展した。 本研究が比較対象に選定したフィールドは、アジア圏においては韓国、中国であり、欧州圏では、イタリア、ドイツであるが、アジア圏の「制度化されたカリキュラム」はすでに翻訳終了しており、論文投稿準備中である。またベトナムなど新たなフィールドも確保できそうな見込みができた。欧州圏の「制度化されたカリキュラム」は2020年度内には翻訳終了する見込みであり、あらかじめ選定した諸国フィールドでは概ね調査可能な状態にある。韓国、中国においては質問紙調査の翻訳も終了しており、2020年度内に調査実施可能な状態にある。また、欧州圏では、インタビュー調査も一部実施しており、今後のデータ確保も期待できる。 欧州調査によって、新たなフィールドを確保できた点も、研究を進展させるのに有益と考えられ、昨年度のやや遅れてる状況は回復できたと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究計画において、当初の予定から大きく変更する点は次の点である。 新型コロナウイルスの感染拡大によって、現在海外への現地調査は極めて困難である。これへの対応として、本課題ではオンラインによるインタビュー調査を考えている。そしてオンラインによるインタビュー調査を採用することによって、現地校の理由から児童生徒への調査が難しくなった場合には、協力体制が得られている補習校を通して調査を実施したい。日本にルーツをもつ諸外国で生活する児童生徒の「経験」を把握することは、本課題の仮説を検討することについて、新たな知見を得られる可能性もある。 研究全体の枠組みとしては、計画通り、以下3点を国際比較を通して推進する。 ①学校音楽カリキュラム経験の実態の解明:ナショナルカリキュラムの分析による「制度化された」学校音楽カリキュラムと、質問紙調査による児童生徒の経験内容構造を解明する(統計的分析、主に因子分析による)。 ②学校音楽カリキュラム経験のメカニズムの解明:学習者ならびに教師へのインタビュー調査と質問紙調査における自由記述を分析し、経験産出過程を解明する。 ③理論の構築:カリキュラム類型を明らかにし、学校音楽文化理論として構想する。
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Causes of Carryover |
本使用額が生じた理由は、イタリア、ドイツ教育課程翻訳が2019年度内に終了できなかったため、翻訳にかかる費用が2019年度内執行とならなかったことによる。すでに2019年度に業務依頼しており、予算計上もしていることから、2020年度に使用予定である。
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Research Products
(8 results)