2020 Fiscal Year Research-status Report
大正・昭和期の国語教育実践における「想像」のあり方に関する実証的研究
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18K02647
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Research Institution | Tokai University Junior College |
Principal Investigator |
山本 康治 東海大学短期大学部, 東海大学短期大学部, 教授 (10341934)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
桑原 公美子 (北川公美子) 東海大学短期大学部, 東海大学短期大学部, 教授 (00299976)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 国語教育 / 文学教材 / 想像 / 修身 / ナショナリズム |
Outline of Annual Research Achievements |
大正期の国語教育はそれまでの修身的教訓重視の傾向から離れ、文学教材による「情操の涵養」を目的として、子どもの自由な「想像・空想」を尊重する多様な「読み」を重視するようになった。しかし、その一方で、文学教材に対する一元的な「読み」を重視する立場も展開されるなど、教育実践の場での「読み」のあり方を巡る模索が続いた。それは、当時の国語教育理論での議論とも重なるものであるが、昭和のナショナリズム高揚期(昭和8年~)になると、多様な「読み」は失われ、ナショナリズムの枠内の一元的「読み」(修身的教訓)に収斂し、太平洋戦時下に至るまで硬直した状況が続くことになる。本課題研究では、この一連のプロセスを実証的に解明することを目指すものである。 研究系列Aでは、これまでに収集した大正10年代から昭和初期における小学校国語科に於ける文学教育実践に関する調査を昨年度に引き続き押し進め、子どもの「想像」の取扱いに対する史的変容の把握をおこなった。また、昭和期に出現してくる「論理」的な読みが、多様な読みを狭小化していく様態を捉えた。 研究系列Bについては、一元的/多元的な「読み」のあり方に対して、大正末には多様な解釈がなされた点を中心に分析を進めた。特に、垣内松三の『国語の力』を中心に、読者の「読み」の主体性を排除する流れが形成された点を明らかにした。 研究系列Cでは、昨年度までに収集した就学前言語教育実践(素話や絵本、口演童話等)及び小学生の課外読物実践の事例(資料)を対象に、音声表現による、「想像・空想」に係る文学受容の実態を明らかにした。 なお、これらの成果の一部は、令和2年度研究成果公開促進費「学術図書」内定図書全体を対象にした、修正、補筆という形で反映させた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナ感染症罹患対策のため、予定していた訪問調査(大学図書館所蔵資料調査)の多くが中止になり、予定していた新規資料を収集することができなかった。そのため、昨年度までに収集した資料を対象に研究を進めた。そのことを踏まえた令和元年度における研究系列ごとの進捗状況は、以下のとおりである。 研究系列Aについては、前年度までに収集した、大正10年代の国語文学教育実践についての資料を対象に、当時の小学校国語教育の実践事例、特に「想像・空想」に係る児童の「読み」に関する実践事例について、東京高等師範学校、同附属小学校、及び各地(北海道、秋田、京都、大分、鹿児島)の師範学校、同附属小学校等の実践記録、授業反省会、教案等を対象に分析を進め、児童主体の「想像」が重視されていく多様な形態の実践事例の実態を明らかにするとともに、そこで得られた知見を研究書に反映させた。また、昭和期については、新たに出現してくる「論理」的な読みが、多様な「読み」を狭小化していく様態を捉えた。 研究系列Bについては、前年度に引き続き、大正から昭和にかけての国語教育理論の先行研究の整理を進め、当時の教授理論形成過程を授業実践との関わりにおいて捉えた。特に、垣内松三『国語の力』が示した「形象理論」により、国語教育実践に多様な「読み」の狭小化をもたらした過程を明らかにし、その成果を研究書に反映させることができた。 研究系列Cにおいても、昨年度に引き続き、就学前言語教育実践(素話や絵本、口演童話等)及び小学生の課外読物実践に係る「想像・空想」に係る「読み」の実相について明らかにした。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度に計画していた訪問調査(大学図書館所蔵資料調査)を再開し、そこで得られた資料を対象に以下の各研究系列を進めていく。ただし、新型コロナ感染症罹患状況によっては大きく変わることも予想されるため、既収集の資料を中心にした研究も併せて計画している。 研究系列Aについては、特に、昭和期の国語科文学教育実践の変容、すなわち「論理」的な読みがどのように実践に反映していったのかといった点の把握に向けた研究を進めていきたい。引き続き、当時の小学校国語教育の実践事例、特に「想像・空想」に係る児童の「読み」に関する実践事例について、各師範学校、同附属小学校等を対象とした調査研究を行うとともに、昭和8年から使用された第4期「小学国語読本」を中心に、児童主体の「読み」の変容について、その背景、内容、プロセスについて明らかにしていきたい。特に、中国大陸を取り上げた教材について、その解釈の眼差しがどのように形成されていったのかについて焦点を当てたいと考えている。 研究系列Bについても、昭和期(~8年)における国語教育教授理論形成過程の把握を進めるとともに、その変容過程の背景についても検討していきたい。 研究系列Cでは、就学前言語教育実践(素話や絵本、口演童話等)及び小学生の課外読物実践に係る「想像・空想」に係る「読み」の実相について、引き続き、記録の収集を進め、史的観点から変容の過程とその理由を明らかにする。
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Causes of Carryover |
新型コロナ感染症罹患対策のため、大学図書館、公共図書館、文学館等への入構が不可能となり、計画していた調査対象の資料の収集・閲覧のほとんどができなくなったため、研究が遅滞し、旅費を中心に使用できなくなり、次年度使用額が発生した。 次年度使用額(693千円)の使用計画は次のとおり。 物品費(書籍購入)118千円(昭和期教育関係書籍の購入)、旅費(文献調査) 545千円(国立国会図書館、北海道教育大学図書館、奈良教育大学図書館、筑波大学図書館等)、その他(複写費)30千円
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