2018 Fiscal Year Research-status Report
帝国日本総力戦体制下の技術・職業教育に見る国民的プロジェクト活動に関する研究
Project/Area Number |
18K02658
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Research Institution | Tokyo Gakugei University |
Principal Investigator |
坂口 謙一 東京学芸大学, 教育学部, 教授 (30284425)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | プロジェクト活動 / 一人一研究 / 農業教科書 / 技術開発 / 総力戦 / 青年団体 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、日本の旧学制下において、あらゆる国民に期待された、公共的問題解決を志向するプロジェクト活動に注目するものである。そして、技術・職業教育に焦点を合わせながら、主要には総力戦体制化との関連により当該プロジェクト活動の歴史的形成過程を分析し、その特質と教育学的意味を解明しようとするものである。 平成30年度と平成31年度前半の1年半で行う課題は、義務教育後の働く若者たちが通う青年学校等の青年教育機関に関する技術・職業教育の調査・分析であり、とくに、有業者総数の過半数を有していた農村部を対象化する。具体的には、(1)青年団体の技術・職業的活動、なかでも団員たちが学校教員等の指導を得ながら技術開発等を推進した「一人一研究」に関する調査・分析を行う。(2)各地の教育会が編纂した青年教育機関向けの農業教科書を収集・調査し、同教科書の内容に関する分析を行う。 これらの分析の結果、概ね次のことが明らかとなってきた。第1に、帝国日本の総力戦体制化は、厖大な数のノンエリートの働く若者たちに対して、世界と対峙する帝国日本を強く意識させながら、身近な労働現場の改善を中心として、公共的課題を解決するための汎用的技術開発などをめざすプロジェクト活動に近い問題解決活動の推進者に育成することをめざしていたと見られることである。このため、第2に、農村部においては、農業従事者が就業構造上の主力を占める時代の子どもたちが、自らが生きる地域において、現代的な複合的・多角的農業を営む上で不可欠な、農作業上および農業経営上の実際的で科学的・合理的な問題解決能力の基礎的な部分を育むことをめざしていたと見られることである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
先の「研究実績の概要」に記した研究課題は、平成30年度と平成31年度前半の1年半で行う予定のものであるから、現時点では完了していない。しかし、全体的に見ると、分析結果の大枠とその概要が概ね明らかになったので、その意味では本研究は順調に進んでいると言える。 ただし、この1年半の研究課題のうち、各地の教育会が編纂した青年教育機関向けの農業教科書を調査・収集・分析する作業については、当初は、①秋田県等の水稲単作地、②茨城県等の畑作中心地、③愛知県等の畜産導入先進地、の3エリアについて行う計画であった。これら3エリアのうち②と③に関する作業はある程度進展し、概ね目処が立った。しかし、①については作業が全体的にやや遅れている。このため、平成31年度の半ば頃には、場合によっては、この水稲単作地の農業教科書に関する調査・分析について、一部を平成31年度後半以降に持ち越すこと等を検討する必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
続く平成31年度後半以降、平成32年度(令和2年度)の前半までの1年間における研究課題は、主要には、青年教育機関・青年団体を取り巻く大衆社会の技術・職業的動向に関する調査・分析である。主要に対象化する時期は、帝国日本の総力戦体制化が本格化したアジア・太平洋戦争の時代である。アジア・太平洋戦争の時代とは、1931年の満州事変の勃発から1945年のポツダム宣言までの時期のことである。 具体的には、帝国日本の国家政策と関連づけながら、近代日本の最も代表的な大衆雑誌『キング』の記事内容について、アジア・太平洋戦争の時代における帝国日本の国民に期待された技術・職業的活動の理想的様相に関する調査・分析を行う。『キング』誌は、1925年創刊の月刊誌であり、1943~1945年の一時期『富士』に誌名変更し、1957年に廃刊した。この『キング』誌に関する調査・分析に際しては、佐藤卓己による関連する先行研究(佐藤卓己『「キング」の時代:国民大衆雑誌の公共性』(岩波書店、2002年)の成果等を活用したい。
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Causes of Carryover |
平成30年度は「次年度使用額」として約8万円が残った。これは、「現在までの進捗状況」欄に記したように、水稲単作地の青年教育機関向けの農業教科書に関する調査・分析がやや遅れていることに関係している。ほぼ、資料収集等に要する調査旅費1回分と関連資料の購入費が残った。ただし、この「次年度使用額」は少額である。このため、平成31年度に、ほぼ当初の予定どおり研究を行い、資料収集等に関する調査と資料購入等を実施することを通して対応が可能である。
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