2020 Fiscal Year Research-status Report
帝国日本総力戦体制下の技術・職業教育に見る国民的プロジェクト活動に関する研究
Project/Area Number |
18K02658
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Research Institution | Tokyo Gakugei University |
Principal Investigator |
坂口 謙一 東京学芸大学, 教育学部, 教授 (30284425)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 国民の技術・職業的活動 / 生産の科学 / 創造力・創造性 / 農業技術の科学的改良 / 創意工夫 / 試行錯誤 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、日本の旧学制下において、あらゆる国民に期待された、公共的問題解決を志向するプロジェクト活動に注目するものである。そして、技術・職業教育に焦点を合わせながら、主要には総力戦体制化との関連により当該プロジェクト活動の歴史的形成過程を分析し、その特質と教育学的意味を解明しようとするものである。 この研究目的の下、令和2年度の主要な研究課題は、近代日本の最も代表的な国民大衆誌『キング』の記事内容の調査・分析等を通して、国民による技術・職業的活動の理想的モデルを解明することに設定した。このとき、重点的に取り組むべき時期は、当初の仮説のとおり第1次世界大戦以降とした。この分析の結果、概ね次のことが解明された。 第2次世界大戦開始頃から、『キング』誌上(1943年3月号から『富士』)には、以下のような特徴的な内容の3種類の記事が、誌面上で強調して掲載されるようになり、国民による技術・職業的活動の理想的モデルが具体的・実話的記事として登場してくるようになった。 ①戦闘機などの兵器製造にとくに焦点を当てながら、生産の科学に関する啓発・啓蒙を図ろうとする記事である。たとえば、『富士』1944年1月号の巻頭2色刷の記事「石炭は兵器だ」がこれに該当する。 ②国民の身近な生活場面にとくに焦点を当てながら、国民の合理的・科学的な創造力・創造性を高めようとする記事である。たとえば、『富士』1944年3月号の巻頭2色刷の記事「創意工夫は戦力だ」がこれに該当する。 ③作物栽培を中心とした食料生産に焦点を当てながら、農民が試行錯誤を通して農業技術の科学的改良を為し、それによって増産を実現した実体験を紹介する記事である。たとえば、『富士』1944年1月号の記事「一億石突破を目ざす大増収の米作り体験発表会」がこれに該当する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
令和2年度当初から、新型コロナウイルス感染症の爆発的流行・猛威により、研究は遅れがちになっており、研究成果発表も行うことができなかった。とくに令和2年度の後半以降に着手した、小学校高等科段階を中心とする小学校の技術・職業教育に関する調査・分析が遅れている。具体的には、国民学校高等科実業科農業用の国定教科書『高等科農業』(1944~1945年)の内容及び編纂経緯に関する調査・分析である。この研究課題は、当初より、続く令和3年度の1年間を通した計1年半をかけて取り組む予定であったものであるが、令和3年度は研究の速度を上げること等を通して、この遅れを取り戻したい(後述)。
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Strategy for Future Research Activity |
令和3年度は、本研究の最終年度である。この最後の1年間に次の2つの研究課題に取り組む。 第1の研究課題は、前述した、国定教科書『高等科農業』の内容及び編纂経緯に関する調査・分析である。同教科書は、旧学制下の普通教育の教育課程における技術・職業教育のための、事実上最も主要な教科書であった。編纂主任(島田喜知治)によると、この教科書は「郷土に立脚して展開されるプロジェクト学習」を導入したと証言されている。また、同教科書は、「東北地方」の小学校高等科児童・青年学校普通科生徒を対象とした文部省著作『東北読本』(1939年)、国民学校初等科の理数科理科用の国定教科書『自然の観察』(1941~1942年)および『初等科理科』(1942~1943年)という、特徴的な3つの教科書から多大な影響を受けたとされている。 第2の研究課題は、計4年間の本研究の総括である。最終的には、次のような趣旨の結論を、説得力を持って論証できるとの見通しを立てている。すなわち、第1次世界大戦以降の日本の総力戦体制化は、あらゆる国民に対し、とりわけ厖大な数のノンエリートの働く若者たちに対して、世界と対峙する帝国日本を強く意識させながら、厳しい局面にひるむことなく、身近な公共的課題を解決するための汎用的技術開発などをめざすプロジェクト活動に近い問題解決活動、ないしはプロジェクト活動に近い経験単元学習型の技術・職業的活動の推進者に育成するという、国民教育制度の新たな要素を構築するに至ったとの結論である。
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Causes of Carryover |
前述のように、令和2年度は、最初から新型コロナウイルス感染症の爆発的流行に見舞われ、本研究代表者が居住する東京都は2度にわたり緊急事態宣言・措置が取られた。未だ終息が見えない新型コロナウイルス感染症の世界的猛威は、本研究の進展にも大きな障害となり、「次年度使用額」約36万円を残す最大の要因となった。新型コロナウイルス感染症の大流行のため、資料調査・収集のための旅費も全く執行できなかった。 ただし、本研究が最終年度の令和3年度に取り組むべき課題は概ね明瞭である。また、令和3年度においても資料調査・収集のための国内旅行ができない場合は、各地の公立図書館・大学図書館等の図書館ネットワークや古書販売ルートを駆使して、代替的・補充的措置を講じることも不可能ではない。この場合、研究遂行のためのICT環境の整備が一定必要となる。これらを考慮し、かつ令和3年度に研究の速度を上げること等によって、今回の「次年度使用額」を含む、計4年間の全研究予算執行計画の実現を見通すことができる。
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