2020 Fiscal Year Research-status Report
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18K02663
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Research Institution | Osaka Kyoiku University |
Principal Investigator |
石橋 紀俊 大阪教育大学, 教育学部, 教授 (50274999)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | コンテクスト / 多面的読解 / 認知プロセス / コンクリート・ポエトリー |
Outline of Annual Research Achievements |
詩を読解する際、詩的感覚や詩的想像力、あるいは言語の意味や主題に関わる読解力が大きいことは言うまでもない。ただし、感性的側面や言語の意味的側面を重視する従来の読解法では、コンクリート・ポエトリー作品を読み解くことはできない。なぜならば、コンクリート・ポエトリーは、一般的な詩が有する内面的な抒情性、さらには言語の意味それ自体をも排除することで新たな表現の可能性を広げようとする前衛的な実践だからである。 コンクリート・ポエトリーを読解するためには、言語の感覚的、あるいは意味的側面ではなく認知的側面に重点を置いた観点や方法論が必要となる。その具体化として、昨年度には言語理解におけるコンテクストの機能に着眼し、例えば「●」のみを記す草野心平『冬眠』の読解について論究した。今年度は、その成果を踏まえつつさらに展開させるために、イギリスの言語学者ポール・グライスの言語理論を応用しながら、詩を意味ある言語表現として認知するプロセスの精緻化を試みた。その具体的な例として、萩原恭次郎『死刑宣告』のなかでも「ラスコーリニコフ」という前衛的で難解な作品を取り上げ、通常<20世紀初頭のロシア>というコンテクストのもとで〝革命に沸く都市の騒乱を言語化=図像化した作品〟として読まれるこの作品について、コンテクストを<読者がこの作品を読む場面>に置き替えることで、〝作品との出会いが紙面に記された活字との出会いに他ならないこと〟を示す作品として読み替え可能となる点について考察を深めた。このような試みを通して、詩作品および詩教材の読解にけるコンテクストの機能について考察し、多面的な読解を可能とする方法としてコンテクストを転換させることの意義や有効性について探究した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
詩読解の認知プロセスを再構成するに当たって、イギリスの言語学者ポール・グライスの言語理論を応用し、読解を可能とするコンテクストの設定が、グライスの主張する協調の原理に基づく質・量・関連性・様態のそれぞれの格率を満たすことと密接に関わるという点を明らかにすることで、方法論を精緻化する具体的な方向性を示すことができた。 またそれを萩原恭次郎の詩作品の読解において実践的に検証するための構想、及び論点の整理はできたが、論文化を含めた具体的な成果とするには至らなかった。コロナ禍にあって、大学の授業がオンライン化したことへの対応などにより十分なエフォートを確保することができなかったこと、文献収集のための調査が滞ったこと、加えて教員免許更新講習や市民講座等も軒並み中止になったことで、それらを通しての成果の還元、及び検証とさらなる展開につなげることができなかったことなどの理由から研究に遅れが生じた。
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Strategy for Future Research Activity |
ポール・グライスの言語理論の理解を深めることで理論面をさらに精緻化し、コンテクストの転換による多面的な詩読解の方法論を具体化する。 その上で萩原恭次郎の詩作品を読解することで、方法論の有効性を検証するとともに改善をめざす。 加えてその過程では、作品読解における活字技術の影響や効果にも視野を広げ、詩研究とタイポロジーとの架橋を試みる。このことにより、文学を視覚芸術や活字文化と繋げながら、分野横断的で多面的な文学教育の展開のあり方を示す。
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Causes of Carryover |
コロナ禍のため、文献資料収集等を目的とした旅費を伴う調査が思うようにできなかったことが主な理由となる。今年度については、コロナ感染の状況をみながら資料調査を計画し適切に予算を執行する。
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