2020 Fiscal Year Research-status Report
社会参加の主体性と協働的問題解決能力を育成する未来創出型社会科授業の開発
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18K02664
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
吉永 潤 神戸大学, 人間発達環境学研究科, 教授 (50243291)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 未来創出型社会科授業 / ゲーミング / シミュレーション / ディブリーフィング / 主体性 / 協働的問題解決能力 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、社会科教育において、知識・理解の形成のみに偏することにない主体性と協働的問題解決能力の育成を可能にするため、従来の社会科教育における「事実」概念の狭さに課題を見出した。「事実」概念には、「事実―非事実(仮構・虚偽など」という対のみならず、「(実際に実現した)事実―(結果としては実現しなかった)事実可能性」という対がありうる。しかし、社会科は前者の非事実を拒否する結果、後者の事実可能性を視野に収めてこなかった。その結果、社会的事実に関して、起こりえた他の多様な可能性や、採りえたさまざまの問題解決方策を授業で位置付けることができず、その既存事実の原因・結果やその仕組みの理解の獲得に終始してきたと考えられる。 本研究は、上記の事実可能性に着眼し、①学習者に、ある時点までの事実に関する知識・理解を形成しつつ、②それ以降の事実の未来展開には様々な可能性があるという学習状況を作り出し、③学習者のコミュニケーションと試行錯誤によって問題解決や目標追求を行わせる、という「未来創出型社会科授業」の開発と、その効果検証を行う。実際の授業形態は、端的にはゲーム型、ないしシミュレーション型となる。その予想される学習効果は、①民主社会における判断主体 としての自己意識や責任意識の形成、②協働およびコミュニケーションの意欲と能力の形成、③社会事象に関する、知識・理解の深化および興味関心や問いの形成。 実際の授業開発としては、小学校では地理、経済事象、中学校では歴史事象、高校では現代国際社会事象を考えている。これらに関して、試作→大学生を対象とした試行実施→改良→、学校現場での実施と効果検証、との手順を踏む。これらと必然的に並行する課題として、活動後のディブリーフィングの効果的な(学習経験を他の新たな対象に活用する能力を育成しうる)組織方法、学習効果の検証の方法の開発、の2点を掲げている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
昨年度末に掲げた本年度の課題は、既存の授業開発事例につき、その社会実装(授業の現場での実施とそれを通じた効果検証)、および研究成果の社会的発信、の2点を掲げた。しかし、本年度は、コロナ禍の影響により、既存開発教材の現場実施とそれを通じた効果検証は、予定のほとんどが実施不能となり、現場実施以前に、大学での学生を対象とした試験実施も、多くは実施が困難であった。 そのような中でも、次の2例の授業実施を行うことができた。 ①昨年度開発の「吉田松陰の留学志望プレゼンテーション」ロールプレイ授業案(黒船密航を試みた松陰が何を見よう・知ろうとして米渡航を志したかを松陰自身となって語らせる授業)について、所属大学附属小学校の6年生を対象として実施を行った。幕末維新期の歴史授業12時間単元を構成し、その第5時の本実践を位置づけ、単元終了時には、a.松陰の立場に立った明治維新評価、b.それを踏まえた現代日本の課題の発見、の2点の振り返りの話し合いと授業感想執筆を課した。現在はその効果分析を行っている。 ②既開発の外交交渉ゲームの、大学遠隔授業(リアルタイム)での実施を試み、全体会とブレイクアウトセッションの組み合わせにより、一通りは実施可能であることが確認できた。ゲーム設計に修正を加えることによって他ゲームの実施もある程度可能であると予想された。ただし、遠隔状況に伴うコミュニケーションの深まりの不足は歴然と現れ、特にゲーム後のディブリーフィングが低調であった。ゲーミングは、ディブリーフィングを含め、ゲームを共にするチームや対戦相手との「熱気の共有やその残存」のようなものが、その成立に重要な役割を果たしていることが、逆に見いだされた結果となった。 本年度掲げたもう一つの課題である成果発信についても、状況的困難はあったが、学会誌投稿・採択、国際学会発表、国内学会発表などの成果があった。
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Strategy for Future Research Activity |
延長本年度は、最終年度として次の課題に取り組む。①本研究計画全体に係る理論的再検討、②社会状況の変化を踏まえたゲーム開発や改良、③社会実装可能性検証、④成果発表。 ①本研究の狙いは「未来創出」体験を通じた学習者の主体性や協働的問題解決能力の形成にある一方で、そのような体験がいわゆる「やりっぱなし」に陥らず、その後の学習に有意義に活用されていく手立てに関して拡充の必要がある。直後のディブリーフィングのみならず、当該体験を活用させる学習課題の事後設定(を含んだ単元・教育課程構成)を構想する必要がある。その際、当該体験の情意面のみならず認知面(知識・理解形成、判断・意見形成など)での活用をも促進する学習構成が求められる。 ②遠隔学習状況を前提としたゲーミング開発の必要と可能性が明らかとなった。ゲーミングは、適切な設計とデバイスの活用によって、かかる環境にむしろ好適な潜在力を有するとも考えられる。現時点では、「グーグルアース」を利用した仮想旅行の実施、「防災マップ」を利用し、再び(阪神淡路クラスの)震災が発生したとの想定での意思決定体験組織、SNSの「アルゴリズム」機能により摂取情報の偏歪ひいては社会分断が発生する過程の疑似体験、などを構想中。 ③本年度も附属小学校との継続的実践研究の合意を得ているため、「未来創出」体験を含みこんだ各学年の単元設計と実施及び評価を行う予定。その際、既存教材を外挿する方略よりも、上記②のような活動プラン自体を含め実践者と共同開発を進めるアクションリサーチ型方略が実際的かと考えている。このように、開発教材の社会実装の方法論に関する考察も含まれる。 ④研究全体の成果を集約した単行本による成果発信が望ましいと考える。本「未来創出型」授業が、新学習指導要領の要請に資する実践として意義をもつのみならず、日常授業で実施可能であることを明証していく必要がある。
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Causes of Carryover |
2020年度は、コロナ禍により、予定していた国内、国際学会発表に係る移動・参加費支出、及び国内での実証研究の実施に係る支出が困難となり、当該予算を次年度に繰り越した。 しかし、2021年度も国内・国際学会はオンラインが予想されるため、移動費用は支出しない可能性がある。このため、国内での実証研究に係る支出において、その実施にかかる費用に加え、その記録・分析のための新規機材の購入を予定している。加えて、成果発表(出版)のための支出を予定している。
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Research Products
(4 results)