2019 Fiscal Year Research-status Report
新しい紙版画技法の開発とその教育教材としての有効性に関する研究
Project/Area Number |
18K02686
|
Research Institution | Aichi Sangyo University |
Principal Investigator |
山口 雅英 愛知産業大学, 造形学部, 准教授(移行) (10351173)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | 紙版画技法開発 / 教員対象講習会での検証 / 中学校での授業実践での検証 / 小冊子 / ホームページ / 論文 |
Outline of Annual Research Achievements |
1<学習教材用紙版画技法の開発>平成30年度に実施した「版画教育の実態調査に関するアンケート」および愛知県三河教育研究会の講師担当で得た知見を基に「準備、片付けが容易」「短時間で制作できる」「幅広い学年に対応できる」「既存の技法にない表現効果」の4つのポイントで、「ビンバレン刷り(プレス機を使わない凹版刷り技法)」「マスキング版(扱い易く耐久性のある版)」「ジェッソアクアチント(紙版凹版刷りにおける濃淡表現技法)」の三つの技法を開発した。 <開発した紙版画技法の検証>令和元年度、愛知県下5つの市(蒲郡市、みよし市、安城市、知多・大府市、豊橋市)で教員を対象とした講習会の講師を担当する機会を得た。実際に小学校、中学校、高等学校の教員に新しい紙版画技法を体験してもらい制作の様子を観察したり、アンケートを通じ意見、感想を聴くことができた。受講したある中学校の教員が講習会で学んだ技法で授業を行うこととなり、これにアドバイザーとして携わり、授業での生徒の活動の様子を観察することができた。以上の活動を通じ、開発した技法が概ね期待どおりの成果が得られるものであることがわかった。同時に様々な問題点も浮き彫りとなり今後の研究活動の指針を得ることができた。 <研究成果の公表>①講習会テキスト作成:教育研究会研修会担当にあたりテキストとして研究者の開発した紙版画技法をまとめた小冊子を作成、講習会で扱う技法をはじめ様々な版画の可能性について紹介した。②ホームページ:平成30年度から引き続き研究活動の成果をホームページ「紙版画研究室」で公開している。③論文発表:「紙凹版画におけるジェッソを使った濃淡表現技法」, 単著, 2020, 愛知産業大学『造形学研究所報』,16号, pp5-10、「紙版凹版画技法体系」, 単著, 2020, 版画学会『学会誌』,48号, pp57-61。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「研究実績の概要」で報告したとおり、平成30年度は講習会、アンケート等に基づき具体的な研究課題を設定した。令和元年は前年度に設定した課題に基づく研究の実施(技法開発とその検証)およびその公開と、計画通りに進めることができた。動画教材の作成およびホームページでの研究成果の公表も継続して行なっている。令和2年度の取り組みの中心となる紙版画技法書出版に向け順調に準備が進んでいると考える。 ただし、昨年度末から今年度にかけての新型コロナウイルス感染症対策の種々の業務に少なからぬ時間を割くこととなり若干の遅れが生じている。
|
Strategy for Future Research Activity |
<今後の研究方針>①紙版画技法書出版。最終年度では研究の成果を書籍にまとめ出版する。学校教材としての紙版画技法を体系的にまとめた書籍はこれまでにも出版されているが、これらと比較し研究者が執筆する技法書の持つ独自性として次の2点が挙げられる。ひとつは研究者が開発した独自の技法を扱っていること。もうひとつは大学生や成人、版画作家の制作にも活用できるよう幅広く高度な内容も取り上げていること。これは紙版画の社会的な普及も目指してのことである。子どもたちに対し学んだことが成長してからも活かせると示すことには教育的意義があると考える。そのような技法書としていく方針である。②論文。令和2年度の講習会や授業での実践の成果について、これまでまだ論文として取り上げていない「ビンバレン刷り」「マスキング版」を中心に執筆していく方針である。③現在、愛知県一宮市、同知多半島・大府市地域から教員対象の講習会講師の依頼を受けている。昨年度の講習会から改良した技法、指導法の検証を行う機会とする。また愛知県岡崎市美術館から成人を対象とする講座の講師依頼も受けている。こちらは全6回となり単発の講座ではできない多様な技法の実践と検証ができるものと期待している。④ 引き続き動画教材を作成し、研究活動の状況、成果についてはホームページ「紙版画研究室」で公開していく。 <研究遂行の課題>技法書の制作にあたっては、どのような作例を用いることが効果的であるかということがこれから研究を遂行していく上での一番の課題となる。改めて各種紙版画技法の特性、特徴を整理し、多くの造形作品をリサーチし、適切な図柄、製版方法、示し方について研究を進めていく必要がある。
|
Causes of Carryover |
<状況>令和元年度はこれまでの研究成果(考案した紙版画技法の教育教材としての有効性)を現職の教員、生徒に体験してもらい検証することが研究活動の中心であり、予算の多くはそのために使用する予定で計画していたがこれを使用することがなかった。理由は研究実績の概要で述べたとおり各市の教育研究会講習会および中学校の授業が検証の機会となり、そこでは材料費や交通費は全て主催者負担であったからである。またこうした状況で研究協力謝礼金についても支払う必要がなくなりこれも未使用となった。その他、現地調査についても現地に赴き調査すべき特段の資料、事例などなかったためこれも未使用となった。以上のことが主な要因となり平成元年度分の未使用が生じた。 <使用計画> 繰り越し金については、令和2年度に出版を目指す紙版画技法書の出版費用に加えることとする。これにより当初の予算の計画よりもページ数を増やし、カラーページを多く使用するなどより充実した書籍となることが期待できる。
|