2019 Fiscal Year Research-status Report
日本の大学における同僚制の実証研究-意思決定構造と教員間の協働に着目して-
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18K02710
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Research Institution | University of the Ryukyus |
Principal Investigator |
天野 智水 琉球大学, グローバル教育支援機構, 准教授 (90346940)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 同僚制 / 意思決定 / 大学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題である大学における統治構造と教員間協働関係にかかる同僚制の解明に向けて,今年度は国内の国・私立大学の学部長および学科長を対象に質問紙調査を配布・回収した(配布数3,080,回収数582,回収率18.9%).この過程において,質問紙設計にあたり想定した条件に適う対象(数部局を擁する機関であることや,教員組織であること)を選定するために,各機関の内部組織を確認しながらリストアップしたところ,国立大学で教育組織と教員組織の分離という組織改編が進んでいることが明らかとなった. 一方,政治や組織の経済学における知見から大学統治構造と組織を考察するという着想から特にアメリカでの先行研究のレビューを行い,観点の一貫性に欠けるもののデータ分析の仮説や解釈に使いうる次の三つの知見を得た(以下,出典は省略). 第一に,民主的意思決定を約束の信頼性を高める手段として捉えれば,構成員の利害関心が多様な大規模大学では取引を通じて相互を利する協力関係を構築する必要性から,意思決定への教員参加は合理的と考えられることである.これとは裏腹に,第二に,所有者と経営者の間にエージェンシー・コストという形態の,また,企業と従業員の間で機会主義的あるいは戦略的な行動が行われるという形態の非効率性が生じる余地があることからすると,上記の教員参加は効率的であるとみなされるものの,それは構成員間の同質性が高い場合に限られるはずというものである.第三に,よい情報を持たない労働者による経営や拡散した意思決定は質の低い産出をもたらすという企業組織論からすると,管理一般や財政の決定に教員が参加することは非効率をもたらすはずだが,専門知識の重要性と管理者の決定を監視することに失職の恐れなく積極的に教員が参加できることの必要性から,教員人事の決定には教員が参加すべきというものである.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初予定では回収した質問紙を委託業者に依頼してデータ入力を終え,分析を開始することとしていたが,業者依頼にまで至らなかったため.しかし,研究の背景から分析の枠組みまでの論文執筆は進んでいることから,データ分析結果によって見直しが発生しうるとはいえ,遅れの程度は深刻ではないと判断した.
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Strategy for Future Research Activity |
①質問紙調査のデータを分析するとともに,②事例として選定した機関への訪問調査を実施し,③これらの成果を学会大会における口頭発表を経て論文として取りまとめる. このうち②は,当初は①で特徴的な回答があった機関のうち任意で機関名を回答したものを対象とする予定であったが,回答への影響が及ぶことを危惧して一切機関名は問わないこととしたため,特徴的な組織改革を行った機関や,①の過程における推論の条件に合致する外的特徴をもつ機関を選定して実施する.
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Causes of Carryover |
質問紙調査の実施が遅れたことに伴い,回収した質問紙のデータ入力を委託業者に発注することができなかったため.また,当該年度は訪問調査を実施せず旅費を使用しなかったため.このうち,質問紙調査の遅れは調査対象機関の選定を慎重に行ったことと,当初想定していなかったが調査の内容に鑑み報告書所属機関の研究倫理審査を受けたことが原因であった. 2020年度はこれらにかかる経費に加えて,発展的な分析が可能となる統計ソフトオプションの購入,および学会大会参加にかかる旅費を使用する.
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