2018 Fiscal Year Research-status Report
慢性疾患児の「語り」からとらえた自己の形成と病院内教育実践の課題に関する質的研究
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18K02760
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Research Institution | Tsuru University |
Principal Investigator |
齋藤 淑子 都留文科大学, 教養学部, 特任教授 (30817755)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 慢性疾患 / 自己 / 語り / ナラティヴ / PTSD / 院内学級 / 病い / 生活史 |
Outline of Annual Research Achievements |
1.元生徒たちへのインタビュー調査:これまで行ってきた8人の協力者の語りから3人を抽出し、彼・彼女たちの語りと、かつて院内学級で制作した作品(作文、卒業論文、写真、ビデオ)等の分析を行い、それぞれの自己の形成にとって病いの経験がどのようなものとして受けとめられているのか、また病院内教育実践のもつ意味について考察を行った。 2.元生徒の保護者、院内学級教員、医療関係者への聴き取り調査:保護者2名、教員3名、医療関係者2名に対して予備調査を行い、インタビューガイドを作成した。 3.国際学会での小児がん経験者たちの報告に学ぶ:昨年11月に京都で行われた国際小児がん学会に参加し、アジア諸国の医療状況および治療を受けてきた小児がん経験者からの報告を聞くことができた。また同時開催された「世界のがんの子どもたちの絵画展」を見学し、様々な国の子どもたちの作品から、生活、家族、自然などの心象風景、健康へのあこがれ等、様々なナラティヴが込められ表現されていることについて学ぶことができた。 4.テーマに関わる主要な概念の検討:「病いの語り」、「自己の形成」「自己の育ち」、「医療PTSD」等の概念について先行研究を検討した。慢性の病いを抱えながら生きる子どもの自己の形成をとらえるうえで次の3つの視点が重要であるととらえた。①ピエール・ジャネの人格論をベースにして、「自己の育ち」を「身体的自己」・「社会的自己」・「時間的自己」の三つが複雑に絡まり、進行する全体的過程としてとらえ、その過程こそが意味するとした田中孝彦の説。②「PTSD」・「医療PTSD」概念と関連して慢性疾患の子どもの自己の形成をとらえる視点。③「慢性疾患の時代」へと移行した現代社会において、「病いの経験」と生活史を関連させながらとらえる社会学的研究の視点。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度提示した課題について計画的にと入り組み、5.研究実績の概要に記載した。
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Strategy for Future Research Activity |
1:昨年度に引き続きこれまで得られた語りの分析と考察を行う。なお、昨年度まとめた3人の語りの分析について、2019年9月に行われる特殊教育学会で自主シンポジウムを企画し話題提供を行う。教育学会や臨床教育学会で報告し、論文投稿する。 2:作成したインタビューガイドを基に、保護者、教員、医療関係者への聞き取り調査を行い、保護者、教員、医療関係者は、それぞれの子どもの自己の形成にとって病いの経験がどのような影響を及ぼすものとしてとらえているのかを調査し、子ども・当事者と保護者、教員、医療関係者の受けとめ方の共通点や違い・ズレについて分析する。 3:北米もしくはオーストラリアの小児病院を訪問し、入院中の子どものナラティヴが医療や教育の中でどのように生成され、治療や教育実践に活かされているのかについて視察する。特にネガティブな表現・ナラティヴのとらえ方と対処の方法について学ぶ。 4:テーマに関わる主要な概念の検討:慢性の病いを抱えながら生きる子どもの自己の形成をとらえる概念についてさらに検討し構造化し、病気の子どもの自己の形成にとって「病いの語り」のもつ重要性についてさらに検討する。 5:慢性の病いを抱える子どもの自己の形成を支援する教育実践について調査し、教師の専門性や教育実践とりわけ「自立活動」の授業における具体的な教育内容・方法・教材について調査する。
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Causes of Carryover |
今年度参加予定の国際学会の開催が国内で行なわれため、経費を抑えることができた。次年度、先進的な研究を行なっている諸国の小児医療・教育機関を視察し、そこでの具体的な取り組みについて研修する。
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