2019 Fiscal Year Research-status Report
慢性疾患児の「語り」からとらえた自己の形成と病院内教育実践の課題に関する質的研究
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18K02760
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Research Institution | Tsuru University |
Principal Investigator |
齋藤 淑子 都留文科大学, 教養学部, 特任教授 (30817755)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 慢性疾患 / 自己の形成 / ナラティヴ / 生活史 / PTSD・心的外傷 / 院内学級 / 病院内教育 / 教師の役割 |
Outline of Annual Research Achievements |
1.院内学級元生徒2名、元担任1名、医師1名の聴き取り調査を実施した。元生徒たちは、小児がんによって視覚障害や歩行困難となったが、入院中の教員や友達との交流を通して退院後の生活や進路を開拓し、病気を受容していったことを明らかにした。元担任への調査から、具体的な情報提供と自己選択・自己決定の尊重、気持ちの解放と新しい趣味の世界の共有が、子ども理解と教育支援のポイントであることを明らかにした。日本の小児医療とトータルケアのリーダーである細谷亮太氏へのインタビューを通して、1970年代以降の小児がん治療とトータルケアの進展、子どものナラティヴを尊重することの重要性について臨床経験に基づく体験の聞き取りをすることができた。 2.日本特殊教育学会で自主シンポジウムを企画し、これまでの聞き取り調査から得られた成果について調査協力者の教員とともに発表した。全国病弱教育研究会の機関紙に明治以降の疾病構造の変化、病人史、病弱教育成立と展開について歴史的に検討し、論文を掲載した。 3.コロンビア大学小児病棟を視察し、外来治療の子どもたちへの教育プログラムを見学し、医師、心理士、州派遣の教員からの聞き取りを行った。慢性疾患児が自らの生育史やその時々の内面を綴る「ポートフォリオ」について資料を収集した。ニューヨークの医療現場で働いている小児精神科医、看護師、心臓移植コーディネータ等から聞き取りを行い、ニューヨークにおける医療と教育の現状と課題について情報収集することができた。 4.元生徒たちの作文、文集、学級通信等の資料の収集と整理を行い、病気の子どもの多様なナラティブについて検討した。 5.「病いの経験」「医療PTSD」「生活史」および個人の「身体的自己」「社会的自己」「時間的自己」の三つの視点や概念を構造化し、個々の事例の特徴や困難をとらえやすくするための「自己の育ちシート」(案)を作成した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナ感染拡大により、2020年2月・3月に計画していた院内学級経験者、教員、保護者へのインタビューを延期しているため。
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Strategy for Future Research Activity |
1.昨年度に引き続き院内学級経験者、保護者、教員、医療関係者への聞き取り調査を行う。特に昨年度実施できなかった保護者、教員、医療関係者へのインタビューを行い、当事者・子どもによる「病いの経験」の受けとめと保護者、医療関係者、教員の受けとめの共通点と違いやズレについて分析する。 2.これまで聞き取り調査を行った事例について「自己の育ちシート」(案)を用いて分析し、考察を深めていく。またこのシートが病院内教育現場で実際に活用できるように、シートの改善に取り組む。 3.院内学級を経験した子どものナラティブに関する資料を収集する。その際、倫理的配慮に基づいて承諾を得られた作文・絵画等の資料についてはデータ化し、資料集を作成していく。併せて本人や家族、院内学級教員の感想や印象に残ったエピソード等についても聞き取り調査を行う。 4.欧米で作成されている慢性疾患の子どもの「ポートフォリオ」について分析・検討し、「自己の形成」の視点から日本版のポートフォリオを作成する。また作成した「ポートフォリオ」の活用について、院内学級での自立活動や個別の教育支援計画への活用の可能性について探求していく。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染拡大により予定していた調査が行えなくなったため、2020年度に院内学級経験者、教員、保護者、医療者へ繰り越ししてインタビューを実施する予定である。その際の謝礼として使用する。
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