2021 Fiscal Year Research-status Report
大学における発達障害学生支援と学生支援コーディネーターの役割に関する基礎研究
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18K02801
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Research Institution | Tokai Gakuin University |
Principal Investigator |
池田 敦子 東海学院大学, 人間関係学部, 教授(移行) (00750308)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
高橋 智 東京学芸大学, 教育学部, 教授 (50183059)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 発達障害・知的障害者の大学教育 / インクルーシブ / 学生支援コーディネーター / 共生社会 |
Outline of Annual Research Achievements |
日本の障害学生支援は、様々な法的な背景により具体化され、多様な学生が大学にアクセスできるようになり大学には様々な支援が求められている(姉崎:2015)。日本における高等教育・継続教育について向井(2007)は、「入試形態の多様化や少子化・学生数の減少の中で、大学教員の実感としては知的障害ないしは知的障害のボーダーライン・グレーゾーンの学生は一定数存在しており、支援がないために留年・不適応の困難を抱えたまま退学に至る事例もしばしば見られる」と指摘し、障害学生支援は「多様な困難を示す学生への支援」へと移行している(池田・髙橋:2019)。EU諸国では、全学生の5%の障害学生の入学を義務付けており、OECD諸国においては、大学(高等教育システム)において知的障害者対応の特別な教育プログラムが展開され、北欧福祉国家であるアイスランドでは、2013年に国立アイスランド大学教育学部に正規の知的障害者ディプロマ取得コース(2年間)が用意された(髙橋・田部・石川:2018)。 該当年度の研究活動は、上記の現状を踏まえ、今日の入試形態の多様化や少子化による大学における修学困難な学生の中には発達障害・知的障害ないしは知的障害のボーダーライン・グレーゾーンと思われる学生の存在があると予測し、そうした学生の大学教育の意義と修学支援、それらの支援の中心となる障害学生支援コーディネーターの専門性等について検討した。北米(アメリカ・カナダ)におけるインクルーシブな大学教育の在り方について先行研究文献とウェブサイト検索によるレビューを行い。検討内容は、日本特殊教育学会において「米国の大学における知的障害学生対応の教育プログラムと修学支援の動向」として発表し、東海学院大学研究紀要に論文投稿を行った。合わせて、北欧諸国の発達困難を有する子ども若者支援について動向をまとめ論文投稿を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
日本の大学教育における発達障害・知的障害ないしは知的障害のボーダーライン・グレーゾーンの学生の実態は、全国障害学生支援センター「大学案内障害者2020年度版」の調査内容によれば、全国の大学の障害学生支援室等で把握している根拠資料のある知的障害学生の在籍数は報告されているが、日本の4年制大学・短期大学・高等専門学校・専修学校専門課程等の高等教育・継続教育において、知的障害を有する学生の入学試験、合理的配慮、学生支援、在籍と学習の実態、卒業後の社会移行の実態は不明であった。インクルーシブな大学教育を目指す、北米(米国・カナダ)の大学では、知的障害学生対応プログラムが次思惟実施されているが、。文献およびウェブサイト調査から日本との比較を行ったところ、米国の知的障害学生対応教育プログラムによる知的障害学生は、大学における学びや友人・メンター等との大学生活において、幅広い教養や基礎的学力、自己選択・自己決定力、セルフアドボカシー、自立生活をめざすスキルなどを形成し、成長・発達の機会と社会移行が保障されていることが示された。しかし、日本の発達障害・知的障害ないしは知的障害のボーダーライン・グレーゾーンの学生の実態に関する実証的研究は皆無である。現在、短期大学の学生支援全般にわたる文献レビューまで広げ、国内の4年制私立大学(613校)・短期大学(308校)の障害学生支援室等支援機関等へ、発達障害・知的障害ないしは知的障害のボーダーライン・グレーゾーンの学生の実態とその支援に関する質問紙法・面接法調査のために質問項目を検討しているところである。 海外の調査研究は新型コロナ感染症のため渡航することが出来ず実施することが出来なかった。
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Strategy for Future Research Activity |
現在、私立大学や短期大学には定員が未充足ために希望者がほぼ全員入学(ボーダーフリー)している大学がある。そうした大学の学生の中に、大学教員の実感としては、発達障害・知的障害ないしは知的障害のボーダーライン・グレーゾーンの学生が一定数存在していると実感している。こうした群の学生は学習がついていけないため留年する、不適応が生じて引きこもりや大学を中退するなどの現象が生じている。これらの群の学生支援は一般的には、大学にひとたび入学すれば、教師は指導に苦労しながら評価基準を下げて単位を取得させて卒業する例が多い。大学教育を受けるというより、大学経営の中で学生数充足という視点で扱われ、学生の実態に即し「面倒見がよい大学」という支援を受けて社会移行していくという実態があるが、このことは合理的配慮とは全く別物であるといえる。この様な現状から、日本の大学事情の中にいる発達障害・知的障害ないしは知的障害のボーダーライン・グレーゾーンの学生がどのような大学生活を送っているか、受け入れや支援体制について以下の調査を行う。①国内の4年制私立大学(613校)・短期大学(308校)の障害学生支援室等支援機関等への質問紙法・面接法調査の実施、②北米(米国・カナダ)の大学における知的障害プログラムの実態に関する調査及び日本との比較、③北欧諸国(スウェーデン・デンマーク・ノルウェー・フィンランド・アイスランド)における先進的取り組みを行っている大学への訪問調査、④4年制大学・短期大学等を卒業した大学教育経験を有する知的障害当事者調査行い、発達障害・知的障害ないしは知的障害のボーダーライン・グレーゾーンの学生のインクルーシブな大学・高等教育保障の意義・役割の解明とそのための障害学生支援体制のあり方についての検討を行う。
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Causes of Carryover |
次年度に繰り越し、調査等の費用に充てる。
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