2021 Fiscal Year Research-status Report
多様化する学習者を意識した先進技術を含むデジタル教科書用コンテンツの開発と検証
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18K02905
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Research Institution | Chitose Institute of Science and Technology |
Principal Investigator |
曽我 聡起 公立千歳科学技術大学, 理工学部, 教授 (30279476)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
川名 典人 公立千歳科学技術大学, 理工学部, 教授 (50295929)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | AR / 携帯情報端末 / 多様化する学習者 / 自己決定理論 |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度は,過去の知見を応用し,携帯情報端末とARを用いた教育活動を実施した。本研究のテーマである「多様化する学習者」の対象として,少人数腹式指導を行う小規模小学校で,全校児童数10名の千歳市立支笏湖小学校をフィールドとして,同校の学外授業を支援する活動支笏湖小学校(北海道千歳市)行事「みんなで作ろう!支笏湖であえる「ゆるキャラ」ずかん」(2021年10月5日)を,支笏洞爺国立公園の支笏湖ビジターセンター内で実施した。我々の教育サービスを提供することにより,生態系について楽しく学ぶ機会となることを目的とした体験型学習を実施した。 Deci,Ryanによる自己決定理論(Self-determination theory)では,自発的行動の継続に必要な3つの要素,「自律性の欲求 (Autonomy)」,「有能性の欲求 (Competence)」,「関係性の欲求 (Relatedness)」を示している。特に,自律性の欲求は選択や行動の自由を自ら選択することにより,自発的行動の継続が期待される。本取り組みは,学習者の自律性の欲求に重点を置いた計画を立案した。すなわち,学習者一人ずつにiPadを貸し与えて,支笏湖ビジターセンター内の展示物の中から「ゆるキャラ」の素材を写真撮影するなどして,準備した用紙にその絵を描く。その後,支笏湖ビジターセンターの周辺から背景にふさわしい場所を選び,ARアニメーションを生成するアプリを用いて動画を作成し,内容をまとめて発表する活動を行なった。 参加した児童の感想を分析すると,全ての参加者の満足度が高いことが分かった。ある感想では「有能性の欲求」,「関係性の欲求」を体験できたことを示している。以上から,この授業活動で狙いとした「自律性の欲求」の他,「有能性の欲求」,「関係性の欲求」も満たし,自律的行動を促したと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究においては,主に携帯情報端末やデジタル教科書を用いることによる,教育効果について実証実験を行いながら,その効果について検証を行ってきた。一方,我が国における教育環境は大きく変化してきた。特に,新型コロナ感染症であるCovid-19が2019年からパンデミックとなり,社会全体に大きな影響を与えた。このことは2018年度に研究を開始した時点においては予期せぬ出来事であり,本研究の実証実験などに支障をきたし,2度に渡り計画を延期した。 教育の現場においては,2019年12月に文部科学省が発表したGIGAスクール構想が,いわば,新型コロナ感染症に対応するための,遠隔授業で利用するツールとして,2020年度から取り入れられ,学習者一人に一台の端末が利用できる環境と,高速大容量通信ネットワークが全国に急速に普及した。しかし,本研究が取り組んでいる「多様な学習者」や「デジタル教科書」を意識した取り組みは普及していない。 このように,本研究を取り巻く環境は大きく様変わりをする中で,今年度,この研究が行なった「みんなで作ろう!支笏湖であえる「ゆるキャラ」ずかん」のように,デジタル教科書のコンテンツとしての,ARなどのコンテンツが授業において,目覚ましい学習効果があることを示すことができた。 残念ながら,こうしたデジタルコンテンツを一体化したコンテンツとして取りまとめる,デジタルブックを編集,出力するアプリケーションとして,当初我々が使用したiBooks Authorが開発中止となり,シームレスなコンテンツ提供は困難な状況にある。完全に一体化したコンテンツ提供は困難であるが,その後のデジタルツールの普及に伴ない,利用者のスキルも向上するなど,デジタルブックとWebブラウザの併用に伴うデジタルコンテンツの利用が,現在のデジタル教科書を取り巻く実情である。
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Strategy for Future Research Activity |
ARやVRなどのデジタルコンテンツを,一体化したコンテンツとして取りまとめるデジタルブックの編集,出力するアプリケーションとして,我々が使用したiBooks Authorは開発中止となり,シームレスなコンテンツ提供は困難な状況となった。このことから,完全に一体化したデジタルコンテンツの提供・閲覧は困難となった。しかし,GIGAスクール構想など,その後のデジタルツールの普及に伴い,利用者のデジタルスキルが向上することにより,それまでは困難と考えられた,デジタルブックとWebブラウザの併用による,デジタルコンテンツの利用が,現実的なデジタル教科書の利用方法として考えられる。また,高速大容量通信ネットワークが,全国に急速に普及したことにより,当初我々が構想していた,ネットワークを利用せずスタンドアローン型のデジタル教科書内のデジタルコンテンツの閲覧・利用ではなく,各コンテンツを提供するWebサービスを併用する方式が一般的となってきた。 そこで,最終年度である次年度は,これまでの知見を活かしつつ,ARなどのデジタルコンテンツのWeb配信サービスを組み合わせた学習教材の利用に関する実証実験を行うことを検討したい。具体的には,遺跡などに関する学習教材を,埋蔵文化財センターや近隣の専門家の協力をもとに,ARなどのデジタルコンテンツとして作成・表現する。これらのコンテンツはWebサービスを用いて管理・配信する。デジタル教科書から参照する際には,URLリンクからWebブラウザを起動して参照することになる。このように,従来の研究方法で示した,作業ステップにはなかったWebブラウザとデジタル教科書という二つの操作を伴うことが学習上どのような影響があるのかについて実証実験で明らかにする。最終年度の成果については,国内の教育学系の学会で発表することを目標に活動を計画する。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は,Covid-19によるパンデミックの影響によるところが大きい。特に,旅費及びその他の区分において差額が生じた。 本研究の計画において,旅費は,最終年度において海外での研究発表を想定していた。しかしながら,パンデミックの影響により,海外渡航者への制限措置が厳しく,渡航先もしくは帰国時の隔離期間が変動するなど,本来業務との兼ね合いから,渡航計画を立てるのが困難な状況であった。このことから,次年度は,国内での発表を中心に計画を立てる。 また,その他の区分においても,旅費と同様に,海外の学会参加が見込めない状況により,学会参加費(海外)が支出されることがなかったことから差額が生じた。 次年度の使用計画としては,追加実験及び国内での成果発表を行い,成果の取りまとめを成果報告書の製本などにより支出することを検討する。
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