2018 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
18K02929
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Research Institution | Hokkaido University of Education |
Principal Investigator |
尾関 俊浩 北海道教育大学, 教育学部, 教授 (20301947)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
柚木 朋也 北海道教育大学, 教育学部, 教授 (00311457)
榊原 健一 北海道医療大学, リハビリテーション科学部, 准教授 (80396168)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 雪崩 / 教材開発 / 安全教育 / 弱層 / 摩擦 / 自然災害 / 雪氷災害 / 防災教育 |
Outline of Annual Research Achievements |
2017年3月27日に那須岳で発生した表層雪崩によって春山安全講習会に参加した高校生ら8名が亡くなった。このような惨事を繰り返さないためには日本においても雪崩ユース教育が今後必要となる。現状では中高生が雪崩現象をイメージすることがむずかしいという背景を踏まえて,本研究では中高生の雪崩安全教育を行うときの基礎となるような教育プログラムと,その教材を開発することを目指す。研究は大きく分けて,Ⅰ雪崩の発生機構を説明する演示実験装置の開発と,Ⅱ雪崩安全教育のプログラムに関する研究によりなる。 Ⅰの演示実験装置について,初年度は実験装置の開発と実験方法の確立に主眼を置いた。表層雪崩の発生機構は中等教育で学ぶ「摩擦」では説明できないので,中高生には新しい概念である弱層の理論を導入した。実験を通して摩擦説という一見正しく思える説がなぜ間違っているのかを「摩擦モデル」で,弱層というものはどのような層でどう働くのかを「弱層モデル」を用いてわかりやすく説明できるよう試みた。初年度は開発した雪崩実験装置は北海道教育大学の学部学生に向けて演示し,教材としての検証を行った。弱層モデルの課題として,「弱層」の概念は理解できるものの,実際の弱層がどのようなものかイメージしづらい点が挙げられた。 Ⅱの雪崩安全教育のプログラムに関する研究では,ヨーロッパとカナダの若年層向け雪崩教育プログラムの調査研究を行った。 以上の研究成果は,国内では日本雪氷学会全国大会,北海道支部研究発表会,国際ではInternational Snow Science Workshop 2018で研究発表するとともに,国内の研究論文や国際会議論文として公表した。また,数多くの雪崩安全講習会において雪崩教育プログラムに携わった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度は,Ⅰ演示実験装置について次の4つを作成し試行した。Ⅰ-1 摩擦モデル(摩擦では説明できないことの表現),Ⅰ-2 弱層モデル(磁石による表現),Ⅰ-3 弱層モデル(蛇腹による表現),Ⅰ-4 弱層モデル(引き出しによる表現) Ⅰ-1は,今でも報道機関でしばしば見られる「摩擦説」では表層雪崩の発生を“説明できない”ことを生徒にわかりやすく示すためのモデルである。摩擦説では氷化して摩擦係数が小さくなった斜面に,雪がたくさん積もると雪崩が発生するという考え方である。しかしこの説では雪崩の発生は物体(上載積雪)の質量には関係せず,斜度θか静止摩擦係数μが変化したときに発生することとなり表層雪崩の発生機構とは異なる。摩擦モデルでは斜面の氷化を視覚的にわかりやすくするためにアクリル板を採用し,上載積雪と斜面の間の摩擦が小さいと積もることなく滑落する様子をイメージしやすくするために,滑落する角度を測定した。その結果,上載質量を増やしていっても落ちる時の角度は変わらないことがわかり,実際の雪崩とは異なる現象であることが示せた。 弱層の破壊で表層雪崩の発生機構を説明する弱層モデル(Ⅰ-2~Ⅰ-4)が本研究の本流となる。雪の破壊現象を雪でないもので演示することから,モデルの設計では雪崩を忠実に再現することではなく,学習してもらいたいポイントを強調することを主眼とした。また,弱層の特徴として垂直抗力が増してもせん断破壊強度があまり大きくならないことがあるので,これに適した材料の選定を行い,要所に磁石を用いるのが表現に適切であるとの知見を得た。Ⅰの演示実験装置を用い,大学の学部生を対象とした演示を行い,装置の改善点を明らかにした。 Ⅱ雪崩安全教育のプログラムに関する研究では,ヨーロッパの若年層向け雪崩教育プログラムの現地調査を行った。また,文献調査によりカナダにおける雪崩ユース教育の詳細を調べた。
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Strategy for Future Research Activity |
2年目以降は初年度に行なった結果を元に,表層雪崩演示用実験装置の改良と,雪崩安全教育のプログラム開発を次の段階に進める。具体的な作業は以下の項目が大きな柱となる。 Ⅰの演示実験装置について,初年度の研究で作成した弱層モデルの課題として,「弱層」の概念は理解できるものの,実際の弱層がどのようなものかイメージしづらい点が挙げられた。今後の実験装置では弱層の破壊をより強調し,演示するモデルの検討を行う。教室での演示実験を意図する必要があるので,サイズの大きな実験を心がける。また,上部破断面,下部破断面の表現についても検討を行う。開発した表層雪崩学習実験装置は本学学部生ならびに各種学校現場で試行し,学習効果を検証する。出前授業(中学校,高等学校など),防災教育活動など各種研修会を活用する。 Ⅱの雪崩安全教育のプログラムに関する研究では,初年度に行ったヨーロッパ,カナダの雪崩教育プログラムを参考に日本の雪崩ユース教育に向けた,雪崩安全教育プログラムを検討する。中高生の理科の知識で理解できるように学習を組み立てることを心がける。また,出前授業のような演示実験だけでは対象人数に限りがあるので,ネット動画として配信することを目指し,映像配信用のコンテンツを企画する。
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Causes of Carryover |
当初の予算では,研究分担者の榊原健一がオーストリアにおいて本研究の研究発表および現地調査を行うために旅費を見込んでいたが,本出張から継続でヨーロッパにおける別の出張が加わったため,予算を切り分ける必要が生じた。結果として本研究による旅費について次年度使用額が生じた。 次年度は,今年度の調査で不足していた地域についての調査をこの次年度使用額を加えた予算で計画しており,予算消化を見込んでいる。
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[Journal Article] Characteristics of weak layers of slab avalanches that occurred in Hokkaido in the decade from 2007 to 20172018
Author(s)
Toshihiro Ozeki, Hayato Arakawa, Akihiro Hachikubo, Yusuke Harada, Go Iwahana, Yuji Kodama, Kazuki Nakamura, Daiki Sakakibara, Ken-ichi Sakakibara, Takanobu Sawagaki, Kou Shimoyama, Shin Sugiyama, Katsumi Yamanoi, Satoru Yamaguchi, Eizi Akitaya, Akihiro Tachimoto
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Journal Title
Proceedings of International Snow Science Workshop 2018
Volume: 1
Pages: 997-1000
Peer Reviewed
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[Presentation] Characteristics of weak layers of slab avalanches that occurred in Hokkaido in the decade from 2007 to 20172018
Author(s)
Toshihiro Ozeki, Hayato Arakawa, Akihiro Hachikubo, Yusuke Harada, Go Iwahana, Yuji Kodama, Kazuki Nakamura, Daiki Sakakibara, Ken-ichi Sakakibara, Takanobu Sawagaki, Kou Shimoyama, Shin Sugiyama, Katsumi Yamanoi, Satoru Yamaguchi, Eizi Akitaya, Akihiro Tachimoto
Organizer
International Snow Science Workshop 2018
Int'l Joint Research
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