2018 Fiscal Year Research-status Report
記録映像を活用した河川環境の視覚化と教材化に関する方法論的研究
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18K02954
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Research Institution | Tokyo Gakugei University |
Principal Investigator |
吉冨 友恭 東京学芸大学, 環境教育研究センター, 教授 (20355829)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 記録映像 / 河川環境 / 視覚化 / 教材化 / 方法論 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では河川環境を題材にした映像教材のモデル化と作成のための指針の提案を目標にしている。はじめに、河川の空間的特徴、生物の生息場の階層構造、自然流況の変化や洪水による撹乱等、河川環境の捉え方を概念化・視覚化した関連研究をレビューし、空間スケールの大小、構図やアングル、時間の長短、タイミングや時期、水の質と量、生物の生活サイクル等、映像を用いた教材における河川の事物・事象の見せ方について再考した。 メイン素材となる映像資料の収集については、収集先のリスト化、各組織における所蔵状況の確認、提供依頼と権利関係の許諾、資料・記録の受領と収集の一連の作業を始めることができた。国土交通省(水管理・国土保全局防災課、関東地方整備局河川部、同局江戸川河川事務所、近畿地方整備局淀川河川事務所)、内閣府沖縄総合事務局開発建設部、埼玉県水環境課の協力を受け、映像資料の所蔵状況の確認と収集を行った。資料の中には、過去の水辺環境、水害による被害、人々の伝統的な営み等、実写による多くの貴重な記録映像が含まれていた。 教育実践として、江戸川河川事務所「小貝川災害復旧記録/昭和56年」の一部を東京都江戸川区立北小岩小学校の授業「総合的な学習の時間」に、木曽川上流河川事務所「水害・川とともに生きる英知/昭和51年」の一部を岐阜県山県市立伊自良南小学校の授業「流れる水の働き」に用いた。水害の記録映像、復旧作業の記録映像を視聴する場面を中心に、視聴者である児童の反応を対象とした調査を行った。導入した映像は児童の印象に残るものであり、地域の川の特性や水害の影響の大きさについて調べたいという意欲を促す等、児童の意識に与えた影響について把握することができた。さらに、授業の実践者の発話や補助的に活用した資料から、映像を補完するためのグラフィックや解説づくりに資する知見も得ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
映像による河川の事物・事象の捉え方・見せ方を再考するとともに、資料の収集先や所蔵状況の調査、提供依頼や権利関係の許諾、資料・記録の受領と収集の一連の作業を開始し、今後の映像収集や編集の効率化に役立つ留意点を確認することができた。映像資料の収集については、国土交通省をはじめ多くの公的機関の協力が得られ、おおむね順調に進んでいる。膨大な映像資料の中から、構図やアングル、事象のポイントとなる要素を含む必要なシーンを取り出す作業も一部について進行中である。映像資料を所蔵している組織においては、映像の選定作業の支援を受けることができ、一部の映像についてはアナログ形式であったため、デジタル化の協力も得られた。その結果、貴重な多くの映像資料を確認することができた。映像資料は、特定のテーマで作品としてまとめられたものと、素材のまま所蔵されているものがあり、いずれも実写により様々な事物・事象を直感的かつリアルに伝えているものを多く入手することができた。また、小学校の現場の協力が得られ、実際の授業による教育実践を通じて、映像が視聴者であった児童に印象づけること等、教材の素材としての効果を確かめることができ、今後の教材化に役立ついくつかの知見が得られた。また、映像使用の際には実践者が口頭や資料により映像を補完していることがわかり、本研究で予定している映像の前後への挿入あるいは映像に合成する視覚情報の作成の必要性も示唆された。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き、国や自治体の協力を受け、映像資料の収集と選定、デジタル化を行っていく。資料の所蔵状況の調査、提供依頼や権利関係の許諾、資料・記録の受領等の一連の作業については、さらに効率的に進めていきたい。 全国各地から多様なテーマの映像資料を入手できそうな状況ではあるが、今後は地域防災や自然再生、流域水循環等、いくつかのテーマに絞り、それらに関する映像資料を優先して選定することで、今後の教材化を効率的に進めることができると考えている。具体的には、映像資料を所蔵する全国の組織の中から対象を数カ所に絞り、モデルとなる流域を設定し、その条件に即したテーマ設定および映像資料の入手を検討する。例えば、関東地方整備局が所管する施設の映像資料を収集・選定し、荒川流域の映像資料を対象にテーマを決め、構図やアングル、事象のポイントとなる様子を含むシーンをカット編集し、必要な映像の取り出しを行うという流れである。利用者に適した視聴時間を想定し、展示や教材の素材として使用しやすいビデオクリップ(短編映像)にまとめ、それらをモジュールとしてライブラリーを構築することも検討する。 イラストレーションや写真を素材としたグラフィックについては、今後の学校等での教育実践、書籍を含む印刷物や博物館の展示等の調査を元に、表現方法を整理し、河川の映像の特性をふまえた新たなグラフィックを考案していきたい。汎用性の高い教材の作成を前提として、設定したテーマに即した映像を補完・発展する表現を導入し検証できればと考えている。 過去の映像資料は現在、記録媒体・再生機器の変化や経年による保管場所の変更等により、劣化や滅失、散逸が心配されているものも多い。そのような状況もふまえ、死蔵されている貴重な映像資料の発掘については手がかりを探りながら早急に進行し、河川の環境教育、防災教育の現場に還元できるよう、引き続き調査を進めていきたい。
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Causes of Carryover |
映像資料を所蔵している組織において映像の所蔵確認や選定作業の支援を受けることができたことにより、現地までの旅費の支出を抑えることができた。また、一部の映像のアナログからデジタル変換の作業についても協力を受けることができ、予定より作業負担が減ったため、人件費や謝金の支出も少なくなった。繰越分については今後のグラフィックの現地調査や試作検討等に充てる予定である。
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Research Products
(2 results)