2020 Fiscal Year Research-status Report
二重過程理論とARSを活用する農薬のリスクコミュニケーション技法の開発
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18K02979
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Research Institution | Shimane University |
Principal Investigator |
巣山 弘介 島根大学, 学術研究院環境システム科学系, 准教授 (70284023)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 農薬 / 教育 / オンデマンド授業 / リスクコミュニケーション |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、一つの化学物質が農薬取締法に基づく登録を受けて上市に至る過程や上市後に行われる食品や環境への残留量調査を、それらに携わる人々の仕事のイメージが浮かぶような「一連のストーリー」にして示すスライド等、様々な教材群を作成し、それらを活用するリスクコミュニケーション技法の開発を目指すものである。一方、研究開始後に農薬取締法が改正され、その一つとして生活環境動植物(鳥類、野生ハナバチ類等)へのリスク評価が盛り込まれた。そして、令和元年11月には「鳥類の被害防止に係る農薬の影響評価ガイダンス」が、令和2年8月には「野生ハナバチ類への影響評価ガイダンス」が制定されたため、それらの内容を解説するスライド教材を作成した。また、水域の生活環境動植物への曝露予測濃度(水域PEC)の算定法における様々な想定等について詳述する部分を従来の教材に加えて充実させた。さらに、令和元年度に作成した教材(ネオニコチノイド系殺虫剤が島根県の宍道湖において魚類の餌となる生物を減らし、間接的にウナギやワカサギの漁獲量の低迷を招いた可能性を指摘する論文等を活用)にネオニコチノイド系殺虫剤の水中における光分解産物のユスリカ幼虫へのリスク評価に関する文献を活用した部分を追加して内容を充実させた。そして、それらの教材を令和2年度後期の専門科目「農薬環境科学」で使用した。なお、それらの教材や技法は対面式の講義を前提とし、ARS(Audience Response System)を用いたアンケート等を併用する形式を想定していたが、新型コロナウイルスの感染機会削減・拡散防止対策として島根大学では令和2年度後期も授業を非対面形式とされたためオンデマンド形式(ナレーション入りのスライド教材を指定期間内の任意の日時に視聴)とした。そのためARSを用いたアンケートは実施できなかったが、感想文の内容からその有効性を検証した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
農薬取締法の改正に伴って制定された新たな生物種への影響評価ガイダンスや曝露予測濃度の算定法の内容等を盛り込んだスライド教材およびネオニコチノイド系殺虫剤に関する文献等を活用した新たなスライド教材を作成し、さらに、全編にナレーションを加えてオンデマンド形式にすることができた。また、それらを視聴した受講生の感想文の内容からその有効性を検証することはできた。しかし、ARS(Audience Response System)を用いたアンケート等は実施できす、その有効性を数値化できなかったことにより進捗がやや遅れていると言えるであろう。また、日本農薬学会第46回大会にて展示ブースを設けて教材の内容や受講生の反応等を公表し、意見等を聴取して教材やリスクコミュニケーション技法の改善に役立てる予定であったが、新型コロナウイルスの感染機会削減・拡散防止対策として学会がオンライン形式とされたため、行うことができなかった。農薬に関する専門家や教育関係者等による点検・評価を受けつつ直接議論することは本研究にとって重要なプロセスの一つであるため、それが実現できなかったことにより進捗がやや遅れていると言えるであろう。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに開発・充実してきた様々な教材について、それらによる学習効果やリスクコミュニケーション技法としての有効性等を二重過程理論等に基づいて分析しながら継続・改善し、「感情に動機づけられ,かつ科学的論拠に基づく合理的な理解や判断を促すような授業方法」および「様々な立場を理解し,かつ対話や共考を通じて多様な情報や見方を共有する姿勢を養うような授業方法」の開発を進めていきたい。ただし、本研究で開発しようとしていた教材や技法は、多くが対面式の講義を前提とし、ARS(Audience Response System)を用いたアンケート等を併用する形式を想定していたが、新型コロナウイルスの感染機会削減・拡散防止のため、島根大学では少なくとも令和3年度の前期は多くの講義科目が非対面形式とされた。また、それが後期も継続する可能性もある。よって、元来の前提が崩れた状況ではあるが、令和2年度に作成したオンデマンド教材をさらに洗練し、新たなリスクコミュニケーション技法の開発を目指すこととする。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの感染機会削減・拡散防止対策として、参加予定であった日本植物防疫協会のシンポジウム(令和2年9月および令和3年1月)が中止され、また、日本農薬学会第46回大会(令和3年3月)がオンライン形式とされたことにより、使用予定であった旅費や展示ブースの出展費の支出ができなくなったため次年度使用額が生じた。次年度に研究成果発表費用等として使用する予定である。
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