2019 Fiscal Year Research-status Report
天然色素誘導体を用いた繰り返し利用可能なpH試験剤の開発
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18K02983
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Research Institution | University of Miyazaki |
Principal Investigator |
有井 秀和 宮崎大学, 教育学部, 准教授 (80384733)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中林 健一 宮崎大学, 教育学部, 教授 (60201670)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | アントシアニン系色素 / 繰り返し利用 / pH試験剤 / フラビリウムイオン |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、アントシアニン系色素の発色団であるフラビリウムイオンを合成し、シリカゲルやゼオライトなどの無機固体材料に吸着させることによって、繰返し利用できるpH試験剤を開発し、生徒の液性に対する理解を促進させる。また、一つの物質がpH変化によって複数の色を持つことを知ることで、化合物に対する関心を引きつける。小中学校ではリトマス試験紙やpH試験紙で液性を調べているが、これらは1度だけの利用に留まるだけでなく、なぜ色変化が起きるのか、という根源的な問いに答えるのが難しい。そこで、紫芋などに含まれるアントシアニン系色素の発色団であるフラビリウムイオンを化学的に合成し、その色素を無機固体材料に吸着させることによって、繰返し利用できるpH試験剤の開発を目指す。 研究の実施にあたり、(1)適切なフラビリムイオンの合成とその同定、(2)フラビリウムイオンの無機固体材料への吸着とpHへの応答と耐性評価、(3)児童・生徒との実験と液性に対する理解度調査、の順で進めていく。令和元年度は(2)の合成した化合物の無機固体材料への吸着と、酸性・アルカリ性水溶液に対する色変化や色素の耐久性について検討を行った。前年度に予備的に無機固体材料としてシリカゲルを選択して吸着を行ったが、本年度は様々な大きさの細孔を持つゼオライトを用い、実験を行った。その結果、水酸基を三つ有する3',4',7-トリヒドロキシフラビリウムクロリドをプロトン置換したモルデナイトに吸着させ、酸性・塩基性水溶液と反応させると、色素の吸着したモルデナイトが繰り返し色変化を示した。またモルデナイトに吸着させることで、アルカリ性水溶液に対する色素そのものの安定性も高くなった。これらのことは、無機固体材料の細孔とその大きさが関与していることを示している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
合成したフラビリウムイオンの中で複数の色変化が観測された3',4',7-トリヒドロキシフラビリウムクロリドを色素として用い、シリカゲルあるいはゼオライトへの吸着実験を行った。シリカゲルは球状シリカゲルを用い、ゼオライトはプロトン交換したY型ゼオライトとモルデナイトを用いた。フラビリウムクロリドをメタノールに溶解し、そこへ無機固体材料をそれぞれ加え、室温、暗所で1時間浸漬した。上澄みを取り除き、水とメタノールで無機固体材料を洗浄し、乾燥した。 いずれの無機固体材料もフラビリウムイオンの吸着が観測され、酸性(0.1 M HCl)もしくはアルカリ性(0.1 M NaOH)水溶液と接触すると対応した色変化を示した。酸性・アルカリ性水溶液を交互に色素が吸着した無機固体材料と反応させると、シリカゲルとY型ゼオライトでは数回程度で色素の流出と退色が観測されたが、モルデナイトではそれぞれの水溶液を30回反応させても流出は見られず、対応する色変化を維持していた。この違いは細孔の有無とその大きさに起因しており、シリカゲルは細孔を有していないためフラビリウムイオンの吸着が弱く、Y型ゼオライトは細孔を有しているもののフラビリウムイオンに対して細孔が大きいため、色素が流出したと考えられる。一方、モルデナイトでは細孔の大きさがフラビリウムイオンに適切で、無機固体材料と色素との親和性が高くなり、同じ色変化を示し続けたと推察される。この親和性の高さはフラビリウムイオンのアルカリ性水溶液に対する安定性の向上にも寄与し、0.1 M NaOH中で20分で完全に分解する3',4',7-トリヒドロキシフラビリウムイオンが、モルデナイトに吸着したものでは1時間経過しても吸収帯を維持していた。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度の予定では研究概要の(3)の児童・生徒に利用してもらうことを予定していたが、新型コロナウィルスの影響で実施が難しいことが予想される。したがって、より色変化が明瞭で複数のpH領域を検出できる試験剤の合成を目指す。令和元年度で酸性とアルカリ性の水溶液に対応して、繰り返し応答するpH試験剤の合成に成功したので、今後はより複数の領域を示すフラビリウムイオンと無機固体材料の組み合わせを検討する。多様な色変化はフラビリウムイオンの水酸基の数に依存するので、さらに増やしたものを検討する。無機固体材料に関しては、Si/Al比の高いもの、あるいはメソポーラスシリカを用いて吸着実験を試み、酸性・アルカリ性水溶液に対する耐性評価を行う。また色素として一般的なpH指示薬を用いることも検討する。
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Causes of Carryover |
2018年度に購入した紫外可視吸光光度計の仕様見直しにより生じた差額が、2019年度も順調に研究が進行したため、前年度生じた差額がそのまま推移した。2020年度は色素の原料や無機固体材料の購入に充てる予定である。
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