2018 Fiscal Year Research-status Report
干潟域のメイオファウナの解明と，生物多様性に着目した科学教育教材の開発
| Project/Area Number |
18K02990
|
|---|
| Research Institution | Nihon University |
|---|
Principal Investigator |
中尾 有利子 日本大学, 文理学部, 助教 (00373001)
|
|---|
| Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
| Keywords | 干潟 / 種多様性 / メイオファウナ / 貝形虫 / 環境 |
|---|
| Outline of Annual Research Achievements |
本研究は，人間との関わりが深い河口域（干潟）のメイオベントス相を明らかにし，ミクロの視点から生物多様性を捉えられるデータベースの構築と科学教育教材の作成を行うと同時に，メイオベントスの膨大な未記載種を継続的に見つけ出すことで，生物多様性の情報の蓄積に貢献する事を目的とする．平成30年度は小櫃川河口干潟，多摩川河口干潟，いすみ川河口干潟において野外調査と調査時に採取されたサンプルの室内分析を行った．
小櫃川河口干潟では，過年度より調査中の貝形虫類の未記載種について産出地点の追跡調査，未記載種の実験室内での形態・行動観察を行った．殻形態，軟体部の詳細な観察の結果，未記載種はSemicytherura属であることが明かとなり，生物多相性の情報蓄積に貢献した．
多摩川河口干潟では，上流域に調査域を広げた．これまで，多摩川河口干潟は，ある一種の貝形虫類（Ishizakiella miurensis）が寡占的に分布しており，他の干潟と比較すると多様性が低いと考えられていたが，別の種(Loxoconcha kosugii)の割合が多い群集が分布することが分かった．これまでの報告と異なる貝形虫相の分布であるため，その分布が主に何によって規制されるのか，環境因子との関係を詳しくみる必要がある．これを明らかにすれば，メイオファウナの環境モニタリングの指標としての可能性が広がると考える．
いすみ川河口干潟の貝形虫相は初めて調査された．干潟の規模は小さいものの，東京湾の小櫃川河口干潟と同様，種多様性の高い貝形虫相（I. miurensis，Loxoconcha属，Perissocytheridea japonica, Spinileberis 属， Dolerocypria mukaishimensis）が確認された．また，僅かな距離で貝形虫相の構成種が異なっていた．
|
| Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成30年度は干潟によるメイオファウナの違いを把握するため，貝形虫相に関してデータの蓄積がある小櫃川河口干潟，多摩川河口干潟で調査を夏期に行った．小櫃川河口干潟では，未記載種の調査を継続し，記載論文の執筆に取りかかることができた．
いすみ川河口干潟の調査は12月に行ったため，結果をだすのに年度をまたいでいるが，概ね計画通りに進展している．いすみ川河口干潟でこれまでに産出が確認された種は，小櫃川河口干潟に生息する種と重複している．Loxoconcha kosugiiは日本列島の太平洋側ではじめての産出報告となった．
|
| Strategy for Future Research Activity |
本研究において，干潟のメイオファウナを明らかにする第一段階として，申請者が専門とする貝形虫相の概要をつかむことができた．干潟は，沿岸の開発や整備により，その縮小が懸念されているが，残された干潟には，高い種多様性が保持されており，生物多様性の保全という点において重要なスポットであると改めて示すことができる．
今後は，他分類群の産出状況の調査，干潟に生息するメイオファウナを用いた教材（図鑑やデータベース，ワークシート）の検討を行う．公共交通機関からのアクセスが良い多摩川河口干潟では，調査・実習を実施しやすいことから，すぐに参照できるような実習の手引きを作成したいと考えている．また，夏季にいすみ川河口干潟，夏季と冬季に三番瀬での野外調査を実施し，季節変化を捉えたメイオファウナの分布を明らかにする．
|
| Causes of Carryover |
いすみ川干潟での調査が，潮位と申請者の日程の都合により12月に実施された．そのため，試料の処理や分析がが年度内に終了できなかった事から，次年度に持ち越しとなった．予算は，野外調査を含む研究支援の人件費に使用する予定である．
|
