2020 Fiscal Year Research-status Report
服従実験関係者(実験者・教師役・生徒役)の行動に対する目撃者の認知
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18K03005
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Research Institution | Higashichikushi Junior College |
Principal Investigator |
釘原 直樹 東筑紫短期大学, 食物栄養学科, 教授 (60153269)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
綿村 英一郎 大阪大学, 人間科学研究科, 准教授 (50732989)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 服従行動 / 命令者 / 犠牲者 / 第三者 / 道徳 / モラル・ディスタンシング |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は第三者の目に映った、命令者、服従者、被害者の姿を明らかにすることである。過去の服従行動の研究は人がいかに権威に弱いのか、その服従率の高さを明らかにし、学会のみならず社会に衝撃を与えた。しかし、研究方法に付随する倫理問題のために、研究のほとんどがアメリカでは1970年代、アメリカ以外では1980年代で打ち止めになっている。ただし、いくつかの研究は倫理問題をクリアするために方法を洗練させ、2000年代にも行われているが、それでも数えるほどしか存在しない。 本研究は視点を変えて、第三者がこのような状況をどのように解釈するのかに注目する。当事者の行動分析から、それを眺める外部の人間の評価へ視点を転換するものである。 今年度は、第三者の道徳的判断という観点でも検証を行った。命令を受けた服従者が被害者に対してネガティブな行為をする場面では、観察者はまっさらな状態でそれを眺めるわけではなく、自身の道徳基準に照らして対象のパーソナリティの評価や性格への帰属を行ったり、その善悪を考慮しているだろう。また、その道徳基準も常に一定ではなく、服従場面の観察に先行する自身の行いによっても影響を受けると考えられる。たとえば、電気ショックの映像を見る前に他人に悪口を言った場合には、「悪口を言う」という行為をあまりネガティブに考えない反面、「電気ショックを与える」という行為をよりネガティブにとらえることで自尊心を保持する可能性がある。今年度に行った研究では、Barkanら(2012)のモラル・ディスタンシング研究を参考に、「悪い行動をとった」という場面を想定させ、その後の対象者の評価や、対象者がネガティブな行動をとりうる確率を尋ねた。予測として、①観察者のもともとの道徳基準が低いと対象者のネガティブ評価が抑制される、②悪い行動をとったとの想定によりネガティブ評価が促進される、の2つを立てた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は昨年度行った実験データの追加分析(パーソナリティ評価)を行った。実験は服従実験のビデオを提示して、評価してもらうものである。ビデオの中で、生徒役は75Vから30V上昇する毎に「うっ」と叫び、120Vで「おい、これ本当に痛いよ」という発言をするが、150ボルトの時点で明確に「実験を離脱したい」と主張した。ビデオの提示時間は4分20秒である。実験の結果は以下の通りであった。実験者のパーソナリティ評価については、一貫性、自己中心性、権威主義傾向、知性、リーダーシップ、野心の程度、攻撃性に関しては評価が高くなった。一方、教師役については、従属性、無責任性、協調性、影響の受けやすさ、衝動性についての評価が高くなった。さらに生徒役については性格の温かさ、魅力についての評価が高かった。 さらに、観察者の道徳性についての研究も行い、2つの実験を実施した。2つの実験共通で、①自分がとった不道徳的な行動を想起させる条件、②幸せだ、ピュアだ、健全だと感じた行動を想起させる条件、③(道徳とはあまり関係のない)失望、悲しみ、不安、恥ずかしさといったネガティブな行動を想起させる条件、④典型的な夜の過ごし方について想起させる条件、を設定し、状態自尊感情(3項目)と道徳行動に関する質問に回答させた。1つ目の実験の対象者は大学生(N=137、 Mage=19.03、 男=49、 女=86、 無回答=2)であり、2つめの実験は調査会社の20代~60代モニター(N=221、 Mage=48.34、 男=100、 女=121)であった。先行研究(Barkan、 et al.、 2012)とほぼ同じ手続きであったにも関わらず、条件の操作がうまく効かなかったため、道徳性を絡めた研究は予測のとおりとはならなかった。また、尺度のα係数も低かったことから、現在は研究方法の見直しを進めている段階である。
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Strategy for Future Research Activity |
観察者の道徳的基準を操作する方法を確立する必要がある。それには、先行研究に依らないオリジナルの方法を開発することも視野に道徳基準の操作をテストし、服従実験のビデオを提示するステップに進みたい。ここでは、観察者(すなわち参加者)の道徳基準×服従の状況要因(正当化の理由、契約の有無、役割の授与など)の組み合わせによる何十通りものパターンが考えられる。当初は質問紙の一斉配布も検討していたが、道徳基準という変数を組み込んだことによりかなり大人数の参加者が必要になったため、基本的にはWebによる実験へと移行する。 さらに、昨年度に続いて、服従の状況要因を第三者がどのように認識するかを明らかにする。1. 正当化・合理化の理屈が与えられる(罰を与えることによって記憶力を高める)、2. 契約(謝礼・給与)、3. 役割の授与(実験者、教師、生徒)、4. 権威の側が与える一方的・恣意的ルール(反応の間違いを電気ショックで正すというふれこみ)、5. 行動の意味の転換(被害者を傷つける→罰することによって学習を助ける)、6. 責任の分散、7. 最初の出発点の行動は些細(最初15Vから始まる)、8. 攻撃のレベルが徐々に上がる(段階の違いはわずかで弁別しにくい)、9. 権威の命令の内容が正当なものから不当なもの、合理的なものから非合理なものに徐々に変質、10. 足を洗う・脱会することにコストがかかり困難。ここでは第三者がこのような要因を認識できるか否か、認識の強度はどの程度かを明らかにする。
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Causes of Carryover |
コロナ禍のために、実験参加者の募集に支障が生じ、データ収集が不完全となった。 次年度は本年度実施できなかった研究を含めて、研究を進める。
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Research Products
(4 results)