2019 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
18K03008
|
Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
八ツ塚 一郎 熊本大学, 大学院教育学研究科, 准教授 (10289126)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | いじめ / いじり / 言説分析 / メタファー / 第三者委員会報告書 / 日本語文法 |
Outline of Annual Research Achievements |
「いじめ」容認型言説が、「いじめ」問題に対するわれわれの認識を歪曲し、問題の本質を直視して適切に対応することを妨げている。この本研究の根幹命題を、マクロ言説とミクロ言説双方の観点から検討し、分析の拡大と知見の深まりを得た。さらに、問題を克服するための対抗言説を創出し社会実装する試みについても大きな進捗があった。 マクロ言説については、第1に、前年度の分析を継承発展させ、特に「いじり」という語に着目し、新聞記事言説の分析と、これまでの文法論的検討を応用した分析を展開した。常識的な理解に反し、「いじり」という語はむしろ「いじめ」以上に問題の悪化を招きかねない危険な構造を持っており、またスポーツの分野などより身近な領域から生活空間に浸透しているとの洞察を得た。 第2に、これも前年度からの研究活動を継承発展させ、「ネットいじめ」問題をめぐるマクロな分析を進めた。あわせて、教職大学院における授業実践を通して、ネット問題を適切に理解し「いじめ」の抑制を図るための、新たな授業コンテンツ作成を進めた。 第3に、これまでの研究活動を通して到達した「火事のメタファー」「いじめ型ネット利用」などのメタファー利用による対抗言説について、考察の取りまとめを進めるとともに、授業および教員免許更新講習で社会実装を開始し、新たな検討に入っている。 ミクロ言説については、いじめ問題に関する第三者委員会調査報告書を収集し、体系的な分析と読解の作業を開始した。語用や語彙などのミクロな分析に進展があるとともに、言説体としての報告書とその機能という新たな視座を得て検討を進めている。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
マクロな言説分析については申請時の研究計画に概ね沿ったかたちで研究活動を展開できている。さらに、前年度に獲得した民間の研究助成金による研究活動が、結果として本研究計画とのシナジー効果を発揮した。「ネットいじめ」をはじめとする現今の重要な課題と連動することで、分析における新たな視座と重要な知見を得た。また社会実装においても、教職大学院等の試行で大きな成果を得ている。 ミクロな言説分析についても、いじめ報告書の収集と分析について作業をおおむね順調に展開している。この活動については、住所地およびその周辺地域において、「いじめ防止対策審議会」等委員の委嘱を受け活動してきたところ、調査およびそれに準ずる諮問を依頼されるという事態が生じ、調査活動についての変更ないし調整の必要も生じている。 しかし結果として、「いじめ」の実相および関係者の談話について、新たな観点から詳細な知見を得る機会ともなった。当然ながら社会的活動における微細な機微に触れる情報は研究活動には一切使用しない。しかし、そこで得た知見と教訓は、研究活動に重要な示唆と新たな方向性を与えるものであり、本研究計画にも多大な寄与をもたらしている。
|
Strategy for Future Research Activity |
マクロ言説の収集と分析については、初年度および2年目の活動がおおむね順調に進展しており、その成果を踏まえた活動を第3年目も継続して実施していく。得られた成果と知見についてはすでに部分的に発表を実施してきたが、そこで得た討議と示唆を織り込み、より深度と精度を挙げつつ取りまとめの作業を進める。また、大学や大学院での授業、教員免許更新講習等を通して、社会的実装の試みをさらに発展させ、課題を抽出しながらその内容を深めていく。新たな媒体を活用した社会的発信と普及啓発についても、継続的に検討と試みを進めることとする。 ミクロ言説についても、資料の収集と分析をさらに継続、拡大していく。これについては「ネットいじめ」等、研究の途上で広がりを得た新たなテーマとの関連を深め、さらなるシナジー効果を発揮することが期待できる。また、大学院における授業実践のなかで、メタファーを活用した新たな言説実践と社会実装の試みを進めてきた。この方向性をさらに展開し、免許更新講習や講演、また社会的活動における審議会等の談話も含め、実務的な場面での応用拡大を試みるとともに、課題の抽出とさらなる検討を進めていく。
|
Causes of Carryover |
審議委員会等における社会的活動の増加に伴い、当初の調査出張等の計画に修正と変更の必要が生じた。予定していた資料収集や聞き取り調査について、申請時の計画を一部変更し修正せざるを得ず、これに伴って次年度使用額が生じている。その一方、社会的活動を通して得られた知見を用いて申請時に予定していた調査活動を代替し、さらに研究の視野を拡大するべく、研究の方針を修正した。第三者委員会調査報告書等の分析にあたり、関連する資料の収集と、資料の保存および分析のための資料資材が必要となるため、これに次年度使用額を適用することを計画している。
|