2019 Fiscal Year Research-status Report
三重県答志島における青年流出に伴う文化の維持と変容に関する文化心理学的研究
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18K03026
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Research Institution | Yasuda Women's University |
Principal Investigator |
澤田 英三 安田女子大学, 心理学部, 教授 (00215914)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 答志島 / 青年 / 世代間交流 / 文化心理学 |
Outline of Annual Research Achievements |
三重県鳥羽市答志島では、ここ20年で多くの青年が島外に流出している。それに伴って、青年団や寝屋子制度など、青年がこれまで担ってきた地区内での一定の役割を、青年だけでは果たすことができなくなってきた。たとえば、2018年に行われた御木曳祭では、これまで祭りの主役である音頭取りは青年が担ってきたが、世古(各町内会)によっては青年よりも年長の者を加えることによって、20年に一度の伝統行事を成り立たせた(澤田,2018)。 本研究は、これまで地域内で青年(団)が担ってきた役割を、他の年齢集団等がどのように分担しながら、コミュニティの日常や伝統行事を維持できるよう変えてきているのか、そこで生じた変容を住民はともにどのように納得しながら進めているのかを明らかにするものである。2019年度の研究では、上記の目的を達成するために、老人後援会から青年後援会へとコミュニティが支援する対象を老人から青年へと変えた経緯とその変化がもたらした効用について検討した。 「老人後援会」から「青年後援会」へ 答志地区の町内会には、これまで「老人後援会」という高齢者を支援する会があった。しかし、元気でたくさんいる老人(36.8%:2019年3月末)の後援より、地域内の行事を支えてきた青年の減少によって、負担過重になっている島に残った青年の現状を憂いて、「青年後援会」が必要との声が老人会にも上がるようになってきた。そして、2019年から町内会が後援する対象を「老人」から「青年」へ変えた。後援内容は、金銭的支援ではなく、神祭などの青年団が中心的役割と運営を担う行事に対して、青年を補助する形で元青年(それより上の世代)が入ることになった。このようなコミュニティの変化は、島に残る有職青年たちの負担を軽減しただけでなく、青年と元青年との新たな世代間交流を生むことにつながった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
本研究では、研究1「20年に1度開催される御木曳祭の音頭取り養成にみられる祭りの継承と変容」と、研究2「青年の島外流出に伴うコミュニティ内の役割の変容と住民の納得の様式」の2つの下位研究を設定している。そして、2019年度では、研究2を本格実施するとともに、研究1のまとめを行うことが当初の計画であった。 研究1については、前年に行われた御木曳祭の記録をもとにした伝統継承に関するインタビューを青年および指導者に行う予定であった。3割程度の調査は実施したが、対象者の都合に日程を合わせることができなかったことに加え、2月下旬から生じた新型コロナ禍によって、インタビューそのものを行うことができなくなった。 研究2については、8月および2月上旬の調査において、ある程度の調査は行えたものの十分ではなく、3月に計画していたインタビュー調査も新型コロナ禍によって実施することができなくなった。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度の当初の計画では、研究2の継続調査を行うとともに、研究1と2の総括を行うこととなっていた。しかし、年度末に生じた新型コロナ禍の影響もあり、研究1・2とも進展に遅れが生じている。また、その影響は現在(2020年度6月時点)でも続いており、今後についても、調査の実施が可能となる時期については先が読めないところである。そのような中にあっても、これまで収集した資料を整理・分析するとともに、そこから仮設(仮説)的なまとめや模式図を作ることは可能であると考える。 研究1については、遅れている記録・分析した御木曳祭における伝統の伝承についての仮設(仮説)を答志の対象者に提示し、その内容や意味を説明しながら確認を行う。 研究2については、前年度に行うことができた調査で明らかになりつつある地域内での世代ごとの役割や青年に対する支援体制についての結果を整理・分析するとともに、仮設(仮説)的な模式図を作成して対象者に遠隔で提示し、意見を求めることを行う。また、現地でのインタビュー調査が実施可能になった際には、昨年度から実施が滞っていた青年団や他の成人集団(消防団、漁業組合、各町内会)などにインタビューを行う。また、青年団が重要な役割を果たす年中行事(神祭、祷屋祭等)における青年の役割や、日常生活の中での青年の仕事と地域活動での役割、寝屋子における青年と寝屋親との関わりについての参与観察も行う。そして、島に残った青年、島を離れた青年のいきさつや思い、島で生きる大人たちの思いや納得の仕方についてインタビューを通して明らかにしていく。
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Causes of Carryover |
三重県答志島への出張・調査について、様々な影響によって、当初予定していた回数の調査ができなかったこと、研究補助者となる予定だった学生・院生との調整がうまくつかず、研究補助を担ってもらう機会がなかったことが、このような残高を生む結果となった。 今後の新型コロナ禍の影響がどのように展開するか不明な点はあるが、まずは計画をしっかり立てた上で、変更が必要な場合は早急に次善の対応を行っていくこととする。
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Research Products
(1 results)