2020 Fiscal Year Research-status Report
教育場面での規範逸脱行動を拡散する要因の検討および規範について考える授業案の開発
Project/Area Number |
18K03038
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Research Institution | Nara University of Education |
Principal Investigator |
出口 拓彦 奈良教育大学, 学校教育講座, 教授 (90382465)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 教育心理学 / 規範逸脱行動 / 教員間いじめ / 私語 |
Outline of Annual Research Achievements |
まず,「逸脱行動」の行為者として,これまでの「学生」だけではなく「教員」にも着目することとし,「教員間いじめ」に焦点を当てた検討を行った。具体的には,小・中・高等学校の教員約600名を対象としたWeb調査によって,「教員間いじめ」を受けた頻度等について測定した。その結果,「仕事関連の成果を公平に評価してくれなかった。」という項目の経験率が最も高く,半数弱であった。また,「身体を叩かれたり蹴られたりした。」という身体的な「いじめ」については,6%弱という経験率であった。さらに,「いじめ」の目撃頻度や(他教員や管理職への)報告頻度についても併せて分析した。その結果,回答者の約3分の1が目撃した経験を持ち,そのうち,他教員に報告したものが7割強,管理職に報告したものが6割強であった。以上のことから,比較的高い頻度で「教員間いじめ」が行われており,また,これが目撃されたとしても,必ずしも管理職に報告されるとは限らない現状があることが示唆された。 これらの研究結果は,日本教育心理学会第62回総会と日本社会心理学会第61回大会で発表された。「教員間いじめ」については,上記の調査とは別に教員500名強を対象としたWeb調査を行い,現在,分析を進めている。 さらに,授業中の私語に対する「教師による対応」についても検討した。具体的には,中・高等学校教師各150名を対象にWEB調査を行った。分析の結果,「机や黒板をたたくなどして音を立て、子どもが教師に注意を向けるようにした」といった「間接的対応」は,生徒の否定的な反応を増加させる可能性が示された。ただし,中学校では「間接的対応」「理由の説明」「直接的対応」の全てを教師が行うと,生徒の「肯定的反応」が高くなる可能性も示唆され,「間接的対応」が不適切とは言い難いことも報告された。この調査結果は,次世代教員養成センター研究紀要第7巻に発表された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度は新型コロナのため,対面での質問紙調査の実施が難しい面もあったが,Web調査によって必要なデータの収集を行うことができた。また,これまでは,特に学生(生徒)の規範逸脱行動に焦点を当てた研究を行ってきたが,前述のように,当該年度は教員を対象とした調査を行い,考察可能な範囲を徐々に拡大することができた。コンピュータ・シミュレーションによる個人間の相互作用の分析についても,現在のところ理論的に大きな問題の無い結果が得られている。 研究開始年度から現在までの進捗状況をまとめると,まず,中学生を対象とした質問紙調査によるデータ収集,および,個人間における相互作用のコンピュータ・シミュレーションによる分析は,ほぼ当初の予定通り進んでいる。さらに,規範逸脱行動に関する授業案も作成され,その効果についても実証的に検討がなされた。また,実験的に作成されたデータを基にしたコンピュータ・シミュレーションによって,ある集団・社会の構成員が持つ「ある行動に対する態度」の分布と,その集団・社会における当該行動の広がり方との関係性に関する知見も得られた。さらに,「学生」(生徒)だけでなく「教員」の逸脱行動についてもWeb調査によって検討が行われ,「教員間いじめ」に関する重要な知見が得られつつある。 当該年度は新型コロナへの対応のため,非対面授業の準備等,研究以外の業務に多くの時間をあてる必要があり,研究遂行に使うことができる時間が例年に比べて減少する傾向にあった。しかし,総合的に判断して,本研究課題は概ね順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
当該年度に引き続き,「教員」による学校における規範逸脱行動(「教員間いじめ」)についての検討を中心に進める。前述したように,現在までに1,000名を超える教員から,Web調査によるデータが収集されている。具体的には,「いじめ」られた頻度や,(第3者として)「いじめ」を目撃した頻度,「いじめ」に対する態度,などに関するデータが収集されている。このため,まずはこれらの分析を進めていく。 また,生徒を対象とした質問紙調査によって測定された「授業中の私語」に対する態度や頻度などに関するデータを基にしたコンピュータ・シミュレーションも行い,規範逸脱行動の発生・拡散過程について記述することが可能な理論的モデルに対する検討も行っていく。 これらの研究によって,生徒・教師という多様な(規範逸脱行動の)行為者に適用可能な知見が得られると考えられる。2021年度は,本研究課題の最終年度となる。このため,これまでの研究で得られた知見を総括しつつ,より広範囲の対象に応用可能な理論の構築に向けたデータ収集および分析,考察を行っていく予定である。 研究を遂行する上での課題としては,(昨年度と同様に)新型コロナのため,対面でのデータ収集に困難を伴うことが考えられる。これについては,a)Web調査を利用する,b)実験的に作成したデータを基にしたコンピュータ・シミュレーションによる検証を行う,などの対応を検討している。 以上のことから,データの収集に関しては若干の懸念があるものの,研究計画を大きく変更する必要性は,現在のところ特に生じていないと思われる。このため,基本的に当初の研究計画を基にして,研究を推進していく予定である。
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Research Products
(3 results)