2023 Fiscal Year Research-status Report
思春期青年期における自己の否定的側面への対処と親による支援についての検討
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18K03039
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Research Institution | Nara University of Education |
Principal Investigator |
中山 留美子 奈良教育大学, 学校教育講座, 教授 (60555506)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 自己愛 / 養育態度 / 気質 / 親の期待領域 |
Outline of Annual Research Achievements |
自己評価に対する養育態度の直接的な効果はそれほど大きくないことが明らかになったことから、本年度は気質や学業の状況と養育の交互作用効果に着目した検討を行った。具体的には、2つの研究を実施して、それぞれ国内学会での発表を行なった。1つは、自己愛への影響が比較的大きいことがわかっている親の過大評価と、子の気質との相互作用の検討であった。この研究からは、子の気質のうち接近が高い場合、また親による過大評価が強い場合に自己愛における誇大性が高められること(気質と親の関わりの加算効果)、子の気質が回避・接近がともに低いものである場合に、過大評価が自己愛における評価過敏性を高める影響を持つこと(気質と親の関わりの相互作用効果)が明らかになった(パーソナリティ心理学会で発表)。 もう1つは、過大評価をより具体的な内容として検討するために、親が子に対して抱く期待を領域別に測定し、その影響を検討するものであった。気質と親の各領域(成長、よい子、進学、関係)における期待の相互作用を説明変数とする分析を行った結果、自己愛における誇大性、評価過敏性いずれについても2次の相互作用が有意となり、気質と期待の内容によって、不適応的な自己評価である自己愛の誇大性、評価過敏性が高められたり、低められたりすることが明らかになった(日本心理学会で発表)。これらの結果からは、親の期待は、その内容が例えば子の達成を求めるようなものである場合に自己評価への否定的影響をもつが、成長することや仲間とうまくやること、よい子でいることなどを期待される場合、自己愛はむしろ低下し、自己愛高揚という意味での否定的影響は低減されることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでの研究によって、親の関わりが子の適応的自己評価形成にどのように影響しているのかということについて、ある程度の知見を蓄積することができた。しかし、指標が自己愛に限られるため、適応的な自己評価の指標である本来感や自尊感情などについても検討を進め、適応的な自己形成に寄与する親の関わりがどのようなものか、結論を出していく必要がある。また、本研究課題が具体的な影響場面として想定している「否定的自己評価場面」について、扱うことが十分にできていない。これら課題を残していることから、最終年度に研究を続けることとし、上記の進捗状況として評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の最終目標は、自己の否定的側面に直面している青年に対する親による支援が、適応的な自己の形成にどの程度、またどのように影響しているのかを明らかにすることである。コロナ禍による研究の遅れにより、期間延長を行っているが、次年度が最終年度となるため、この問の答えを得るべく研究を推進したい。 これまでの研究では、不適応的な自己の指標である自己愛に対して、親による関わり(養育態度等)がどの程度、またどのように影響するかを明らかにしてきた。しかし、自己の指標が自己愛に限られることに加え、この影響が生まれていると考える、具体的な自己評価場面(否定的側面に直面する場面等)において何が起こっているのか、具体的なプロセスは明らかにできていない。 最終年度には、適応的な自己の指標である本来感や自尊感情との関連から、親の関わりと子の自己形成の関わりについて、結論を得ていくことを目指す。また、初年度及び2年目には、青年を育てる親と青年それぞれに対する面接調査によって、親子それぞれが子の自己評価場面においてどのような心理的経験をしているのかを検討したが、親子は対応づけられていなかった(ペアデータではなかった)ことから、同じ場面においてどのような相互作用がなされているのかは明らかにできていない。そのため最終年度には、親子のペアに協力を募り、同じ時期の同じ場面を親子がどのように考え、関わりながら過ごしたのかという点から検討を進めるとともに、自己評価形成への影響について考察を行う。
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Causes of Carryover |
コロナ禍による研究の遅れが生じていたことから、再延長制度を利用して、当初の研究目的を達成するための期間延長をすることとしました。そのため、研究目的達成のためのデータ収集等に使用する費用として、次年度使用額を残しています。
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