2019 Fiscal Year Research-status Report
Study-abroad for seniors in the era of 100-year life society
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18K03044
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
小柳 志津 首都大学東京, 国際センター, 准教授 (20376990)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
直井 岳人 首都大学東京, 都市環境科学研究科, 准教授 (10341075)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | シニア留学 / 異文化接触 / 認知変容 / 異文化コミュニケーション / 観光学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は「シニア期の留学(異文化接触)が人生観等の認知的側面にもたらす影響を明らかにし、マルチステージ化する人生での生涯教育としてのシニア留学の可能性を考える」ことを目的に国内外での調査を行っている。 2019年度9月まで1年間はマルタ大学観光文化研究所客員研究員として在籍し、シニア留学生受入れを積極的に行うマルタ共和国での現状を調査した。英語学校の統括団体であるFELTOMを通して調査に協力していただける英語学校を募り、英語学校約10校の校長やプログラム担当者、英語教師の方々から聞取り調査を実施した。特に日本人留学生を担当する現地日本人スタッフの方々とはフォーマル、インフォーマルに会って多角的に捉える要因を探り有意義なフィールド調査が実施できた。 また日本人シニア留学生計20名と面接調査を実施し、留学の動機や留学による心理面での変化、生活の様子、対人交流などを聞き取るとともに、生きがいや人生観といった個人の世界観にも留意してお話を伺った。滞在環境としての学校や宿泊先、学校が主催するアクティビティなどの参与観察も行い多方面から質的データを収集した。宿泊先について学校の寮を見学し間取りや共用部などシェア生活の様子を把握した。ホームスティについてはホストファミリーを訪問し、ホストマザーから聞取りを行ったり、ホームパーティに参加した時の写真を見せていただいたり、面接だけでは把握しきれない具体的な交流の様子を理解できた。 同様に、多くの日本人シニア留学生に人気のイギリスでも調査を行い、ロンドンとボーンマスにて学校関係者の聞取りと日本人シニア留学生のインタビュー調査を実施した。その際には、マルタとイギリスとの違いと共に、大都市と郊外での学校の雰囲気違いや留学を希望する学生の動機の違いなども見ることができた。特にホームスティの環境が大きく異なっており、経験に大きな差異が出ることがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では海外調査は数回に分けてマルタや英国で実施する予定であったが、サバティカルの全期間をマルタ大学の客員研究員として在籍できることとなったのが進捗に大きく寄与している。2019年度は9月までマルタ共和国に滞在し、特に以下の点では調査の進行とともに大きな収穫となった。 まずはマルタ共和国に長期滞在し、生活習慣や宗教、観光資源、公用語としての英語の役割など、マルタの社会を体感することができ、「文化」をあらためて考える絶好の機会となった。シニアがマルタに留学することについてこれらを総合して深く調査する場となった。 また、当地に在住することにより現地の英語学校の担当者との信頼関係やネットワークを築くことができ、面接の対象者を紹介してもらうことが可能となった点は非常に大きい。質的調査においてはそのフィールドで活動する人々からの情報は非常に大きな役割を持っており、また、昨今の個人情報等の規制が厳しくなる中で、信頼関係から調査対象者に接触できる場を提供していただくことができた。 自身も異文化滞在を経験することで文化や海外滞在について異なる視点から再度熟考する機会となり、年代や滞在地といった要因と共に心理側面の分析に繋がる洞察も得られている。 1年間のサバティカルにより日本での発表機会や学会への参加から離れたが、2019年度前半は欧州での学会に参加することができた。また、後半では学会発表に積極的に参加し、異文化コミュニケーション学会や日本観光研究学会にて、異なる側面からの発表を行うことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度はこれまで収集したデータを基に、文化接触や観光学といった異なる視点をあわせて分析を進めていく予定である。研究計画の最終年であるため、学会での発表も続けていきたい。また、シニア留学の促進を目指して在籍大学でのシニア向けの講義を担当する予定としている。異文化コミュニケーションを具体的な活動に繋げるための知識と方法について説明したいと考えている。 しかしながら、2020年年頭から発生している新型コロナウィルスの感染拡大に伴い、直接会って話を聞くという面接調査や参与観察等は非常に難しい状況となっている。加えて、日本をはじめ各国の移動が非常に大きく制限されており、文化移動や留学、海外旅行さえも困難な状況が突然起きた。昨年までは誰もが疑わなかった「グローバル化」や「国を越えた移動」「海外滞在」というものが、突如として非常に難しいものとなったのである。この事態は「異文化コミュニケーション」や「文化接触」を研究してきた私にとって、研究の進捗に影響するどころか、異文化の人々が接触すること自体の意味を問い直す、という根本的な考え方の変更を余儀なくされている。 それと同時に、ICTの発展に伴い、以前にも増してインターネットを使用した「異文化コミュニケーション」「文化接触」の可能性は大きくなっている。実際の移動を伴う接触よりもコストがほとんどかからず、交流の対象は増大する。 今年度はこのコロナ禍に変動する文化移動や文化接触について、揺れ動く国内外の社会を目の当りにして考える非常に貴重な機会であろう。今後のグローバル化や国際的な人の移動が縮小されるのか、留学や海外旅行はどのように変化し、また、より有意義な変化とは何かを考えていきたい。
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Causes of Carryover |
サバティカル期間をマルタ共和国での客員研究員として滞在したため、旅費が計画以上にかかってしまい次年度分を前倒しした。
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