2019 Fiscal Year Research-status Report
多文化社会を創造的に生き抜くためのリーダーシップ養成:「異文化跳躍力」の提案
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18K03060
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Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
田島 充士 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 准教授 (30515630)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 対話 / 異文化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、本科研申請時に提案した「異文化跳躍力」(成員が抱く異質なアイディアを元に,リーダー独自の行動規範を構築する省察力)に関する研究成果を出版できた。異文化跳躍力の基盤アイディアとなるロシアの文芸学者・M.M.バフチンの対話理論に関する学術的著作を1冊,学術論文2報を出版し,国際学会を含む学会発表3本を実施した。 また批判的対話を支えてきたヨーロッパの習俗であるカーニバルに関する情報収集をドイツ国内において実施した。さらに新たな研究フィールドの開拓として,バフチンの対話理論に間接的な影響を与えたといわれるドイツ中世の思想家であるニコラウス・クザーヌスの研究所を訪問し,情報収集を行った。 実践面においては、小学校現場の実践研究者である藤倉憲一氏(新授業デザイン研究会代表)と連携し、大阪市内の小学校において異文化跳躍力を養成し得るパイロット的な教育プログラムの提案を行い、その効果検証を行った。また民間企業の人材研究者である武元康明氏(株式会社・半蔵門パートナーズ社長)との研究協議を通し、実業界で活きる人材観の姿を検討した。 研究成果の社会実践への還元活動として、科学技術振興機構が運営する日本科学未来館(事業部プログラム企画開発課)石川泰彦氏からの相談を機に、実験教室「気象マスターをめざせ! ~雲ができるしくみ」アドバイザーに就任し、新学習指導要領で提唱される「主体的・対話的で深い学び」に対応した学習プログラム開発への助言を行った。さらに日本陸上競技連盟からの依頼を受け、世界で活躍するオリンピック出場候補選手である「ダイヤモンドアスリート」向けの講演会も実施し、生産的な異文化交流のあり方について、異文化跳躍力の検証成果を踏まえた助言を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
異文化跳躍力に関する理論研究に関する検討は、当初の予想を超える進度で進んでおり、その成果発表についても順調に行えている。本年度に出版できた,M.M.バフチンのダイアローグ理論に関する学術図書では、バフチンの定義する対話が、自集団において常識化され省察を行わなくなることを示す「自動化」された言語認識を、異なる活動文脈の視点から再検証することを示す「異化」へと変化させる種類の相互交流を含むものであることを、理論的資料およびコミュニケーション事例に基づき検証した。この対話は異文化跳躍力で想定していた相互交流の定義に近く、本研究の学術的な位置づけを明確化し得た点で意義深いものと考えている。 また自動化されたイデオロギーに対する異化を促す、社会批評の場としてのカーニバルに関する理論研究および、昨年度に実施したフィールド調査の成果を踏まえた、学術論文の執筆および国際学会における研究発表が行えた点も、重要な成果である。 大阪市立小学校の教諭らとの研究連携が深まり、異文化跳躍力を養成し得る教育実践のプログラム開発に貢献できた点も、大きな成果である。まず異文化跳躍力を養成するための教育方法および評価方法(「TAKT型授業」と呼んだ)の理念についてまとめた論文を研究会に参加するメンバーと共有した。その上で実践開発に関する研究助言を行い、パイロットスタディ的な教育プログラムの実施に貢献できた。またこのプログラムにおいて達成された成果および今後の展開可能性についても、助言者の立場からフィードバックを行った。 またその成果を踏まえ、京都教育大学・教職大学院における制度設計・実践の責任者を対象とした招待講演を行い、大学教育において異文化跳躍力的な能力を養成するための教育プログラム開発のあり方について意見交換を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度においては、当初の研究計画通り、これまでの成果を活かした教育プログラムに関する実践研究を深めていく予定である。また科研に関わる理論研究についても、引き続き深化させる。 実践研究としては、小学校現場において2019年度に実施したTAKT型授業のパイロットスタディ実践の研究成果を基盤として、多くの学校で実施可能とするためのより具体的な実践課題に踏み込んだ実施計画書を、新学習デザイン研究会のメンバーと協働で作成する。この計画書を基に、実際に複数の小学校においてTAKT型授業の開発・実施をしてもらい、その成果について助言を行う。また日本科学未来館の実験教室プログラムへの助言も実施し、博物館における異文化跳躍力の育成可能性についても検討する。 理論研究としては、本科研を推進する上での基盤アイディアとなっている学術概念に関する研究を深める。特に実践研究を通して得られた知見の意味を解釈する枠組みとしての、理論モデルの構築に努める。 以上の理論研究・実践研究をもとに、本研究が設定した異文化跳躍力の養成実現に向けた教育のありかたについて提言を行うための学術図書の企画・執筆を進める。
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Causes of Carryover |
ほぼ予定通りの予算を使用できたが、資料取り寄せ費用などの調整で、若干の残金が発生した。次年度は、残金分も含めて資料収集を行いたいと考えている。
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Research Products
(17 results)