2020 Fiscal Year Research-status Report
多文化社会を創造的に生き抜くためのリーダーシップ養成:「異文化跳躍力」の提案
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18K03060
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Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
田島 充士 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 准教授 (30515630)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 対話 / 異文化 / 学校教育 / リーダーシップ |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、本科研申請時に提案した「異文化跳躍力」について多面的な検討を行った。 まず異文化跳躍力の基盤アイディアを提供する、ロシアの文芸学者・M. M.バフチンが議論の前提として参照していたと考えられる、古代ギリシア悲劇・喜劇およびヨーロッパのカーニバル文化に関する情報を収集・整理し、バフチンの対話理論との関係について分析を行った。本研究の成果は学術論文にまとめ、昨年度に学会発表を行ったThe International Society for Theoretical Psychology (ISTP)が主催する学術雑誌に投稿した。本論文は査読後受理され、現在、印刷を待っている状況である。 また古代ギリシア悲劇研究者である丹下和彦氏(大阪市立大学・関西外国語大学)に依頼し、現代におけるコミュニケーションの問題を古典の視点から論じる講演会(東京外国語大学・総合文化研究所主催)を企画した。私は企画者およびコメンテーターとして、対話的学びに示唆するギリシア古典研究の可能性について論じた。 次に、やはり異文化跳躍力の基盤アイディアを提供する、ロシアの教育心理学者・L. S.ヴィゴツキーが、議論の前提としていたドイツの哲学者・G. W. F.ヘーゲルの議論についても、『精神現象学』『小論理学』を中心に検討を進め、ヴィゴツキーの教育論との関連について検討を行った。その研究成果をまとめ、ヴィゴツキー理論に関する専門学会である『ヴィゴツキー学協会』の大会で口頭発表を行った。 また所属する日本教育心理学会・研究委員の立場から、新型コロナ感染状況における対話的学習のあり方について考える公開シンポジウムの企画・運営に参加した。教育現場の最前線で働く教員・専門家を招き、コロナ禍において生産的な対話を促進し得る教員のリーダーシップについて論じてもらった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
異文化跳躍力に関連する理論研究は当初の予想通りの進度で進んでおり、難易度の高いテーマに関する検証論文・著書の執筆および学会発表なども順調に行えた。しかしコロナ禍の影響で、執筆した原稿の印刷が遅れており、本年度の業績としてそのほとんどを登録することはできなかった。またエントリーを行った国際バフチン学会(ロシア・モルドビア国立大学主催)も中止になった。 また研究連携を行ってきた大阪市立小学校の教諭らとの実践検証は、コロナ禍の影響で学校現場への訪問ができなかったため、計画通りに研究授業を実施することはできなかった。さらに2019年度より助言を行ってきた日本科学未来館の実験教室も、コロナ禍のために中止となり、実践的な蓄積は得られていない。 しかしその中でも、富崎直志教諭(大阪市立橘小学校)の協力を得、異文化跳躍力を養成するために私が提案した教育方法および評価方法である「TAKT型授業」の理念に従い、コロナウィルス感染予防に関する対話型授業を実施できた。その成果について、富崎氏を私が企画に関わった日本教育心理学会・公開シンポジウムに招聘し、藤倉憲一氏(太成学院大学)と共同で発表してもらった。また実践研究面の共同研究者であり、研究連携を行う「新学習デザイン研究会」の代表でもある藤倉憲一氏とは議論を続け、小学校現場におけるTAKT型授業の実践可能性についてより具体的な検討を続けてきた。その結果,複数の小学校でTAKT型実践のパイロット的授業を展開できた。 また、世界各地で活躍する企業の技術者・営業職にとっての生産的な異文化交流のあり方について、キヤノン電子株式会社・人事部・環境教育課・高橋徹氏らと協議を行い、その成果を元に、招待講演を行った。実社会の人事の専門家が期待する人材力を知り、関連する資料収集・分析を行うことで、社会に資する学校教育のあり方を実践的に検討できた。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度においては、これまでの成果を活かした教育プログラムに関する実践研究を深めていく予定である。また引き続き、科研テーマに関わる理論研究についても深化させる。 実践研究としては、これまで実施してきた複数のTAKT型授業のパイロットスタディ実践の研究成果を基盤として、多くの教室で実施可能とするための具体的な実践計画書を、新学習デザイン研究会のメンバーと協働で作成する。この計画書を基に、状況が許す限りで、複数の小学校においてTAKT型授業を実施してもらい、その成果についての検証を共同で行う。また日本科学未来館の実験教室プログラムが再開した場合、ミュージアムにおける異文化跳躍力の育成可能性について具体的な助言を行い、実践計画の作成に参加する。 理論研究としては、本科研を推進する上での基盤アイディアとなっている学術概念に関する研究を引き続き深めていく。 以上の理論研究・実践研究をもとに、本研究が設定した異文化跳躍力の養成について、具体的な提言を行うための統合的な分析を進める。
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Causes of Carryover |
本年度はコロナ禍の影響で、研究発表を予定していた国際学会が中止となり、また共同研究先である大阪市立小学校への訪問・研究協議などもできなかったため、交通費を執行しなかった。そのため、残額が生じた。コロナ禍の収束状況により、次年度は、これらの交通費を執行できるものと期待している。
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Research Products
(5 results)