2021 Fiscal Year Research-status Report
多文化社会を創造的に生き抜くためのリーダーシップ養成:「異文化跳躍力」の提案
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18K03060
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Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
田島 充士 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 准教授 (30515630)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 対話 / 異文化 / 学校教育 / リーダーシップ |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、本科研申請時に提案した、異質な他者同士の対話を組織できるリーダーシップである「異文化跳躍力」を育成する、教育プログラムに関する実践研究が進展した。 まず異文化跳躍力を育成するため、大阪市内の小学校教諭らで構成される「新授業デザイン研究会」の責任者である藤倉憲一氏と共同で設計した「TAKT型授業」の理念に基づいた教育プログラムが複数の学校現場において実装された。新授業デザイン研究会のメンバーにより、計6本の研究授業が実施され、申請者は研究者の立場から教室観察とその評価を行った。本研究授業の成果を評価するための研究会も計3回開催し、授業の成果報告と発展的な評価を共有することが出来た。 また対話教育を通じてコロナ禍における子どもたちの居場所支援を行うという視点から、日本教育心理学会(研究委員会)主催のシンポジウム企画にも関わった。異文化跳躍力の育成に関わる学校現場のリーダーを招聘し、学校経営の視点から、コロナ禍を生きる子どもたちへの学習支援のあり方を具体的に提案できた。 さらに研究協力関係にある日本科学未来館においても、コロナ禍のために中断していた、対話力を支援するワークショップ実践が実施された。未来館側の担当者である石川泰彦氏を通じ、本実践の企画段階から助言を行っていた教室の観察を行い、科研プロジェクトによって培った研究的視点からフィードバックを行った。 理論研究も、本科研で理論的支柱の一つとしているヴィゴツキーの発達理論および、バフチンの対話理論について、本科研プロジェクトの中で進めてきた実践プログラムの解釈フレームとしてまとめた論文を、複数の学術誌や学術図書の形で印刷するにまで至った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
昨年度は新型コロナウィルス蔓延のため、異文化跳躍力に関する実践研究を十分に実施することは出来なかった。しかし本年度は昨年度まで進めてきた理論研究の成果を学校現場の実践者と共有できた。その上で、多くの実験授業を実際に実践するまでに至り、その成果を評価できた。 また理論研究についても、複数の論文・著作を出版出来た。その中でも、ヴィゴツキーが参照していたドイツの哲学者であるヘーゲルの主著『精神現象学』『小論理学』についての読解を深め、異質なアイディアを持つ他者との相互交流を展開するための、認知発達の諸相について分析を行うことができた。 さらにバフチンの対話理論に関する研究では、科研プロジェクトの実施を通じて得た実践現場における知見と、体系的な理論を相互に参照・統合し、学術的にも実践的にも価値ある概念の抽出を行うことが出来た。特に異質なアイディアを持つ他者との間で、話者が複数の視点の間で戸惑いながら思考を続ける「ゆれ動き」現象を、生産的な対話を持続させる要因であると評価し、概念化できた。 上記の成果については、ヴィゴツキー・バフチンの専門学術誌を含む、国内外の媒体において確実に出版までこぎ着けることが出来た。これらは、本科研のこれまでの理論・実践研究の成果をまとめたものであり、大きな成果であると考えている。 さらに昨年度は延期された国際バフチン学会もオンラインによる開催が実現したため、二本の学会発表を行うことができた。またこれらの発表およびディスカッションを契機として、バフチン理論に関して国際的に活躍する、第一級の研究者と連携を深めることが出来た。
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Strategy for Future Research Activity |
新型コロナウイルス蔓延のため、2020年度に停滞した実践研究を中心に、これまでの研究成果の発表に注力する。 新授業デザイン研究会のメンバーと設計を進めてきたTAKT型授業は、2020年度から共同で作成してきた実践計画書をもとに、2021年度において複数の学校現場で実際に実施できた。さらにこれらの研究授業の成果報告および評価も研究会を通じて行ってきており、すでにかなりの程度、文章化が進んでいる。本年度はこれらの研究報告を、対話教育に関する理論研究の成果と合わせ、学術図書として出版を進める予定である。また日本科学未来館のワークショッププログラムも順調に再開しているため、2022年度においても、異文化跳躍力の育成可能性について助言を行う。 理論研究としては、本科研プロジェクトを進めてきた成果をまとめ、論文執筆を行う予定である。さらに昨年度の活動で知見を得た海外の研究者との連携を深め、国際学会でのシンポジウムにも参加して成果発表を行う予定である。 以上の実践研究・理論研究をもとに、本研究が設定した異文化跳躍力の養成実現に向けた教育のありかたについて提言を行い、またさらなる研究課題についても検討を行う。
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Causes of Carryover |
2020年度は新型コロナウイルス感染のため、本科研の研究成果をフィードバックすべき小学校現場に立ち入ることが出来ず、研究協議や実践研究がほぼ出来なかった。2021年度はその遅れを取り戻すべく、相当程度の進度で研究を進めることが出来たが、やはり年度内にすべての成果をまとめるまでには至らなかった。 2022年度は社会情勢をふまえ、遅れてしまった実践研究および、実践現場の共同研究者との協議機会を多く設け、より多くの成果発表を行いたいと考えている。そのため、共同研究先である大阪市への出張費用の支出を多く見込んでいる。また実践研究の成果を論文・学術図書等にまとめる上で、書籍購入費も相当額の支出を見込んでいる。
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Research Products
(17 results)