2018 Fiscal Year Research-status Report
感覚処理感受性に着目した抑うつ低減モデルの構築―将来的な自殺予防に向けて―
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18K03079
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
大石 和男 立教大学, コミュニティ福祉学部, 教授 (60168854)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
遠藤 伸太郎 中央大学, 理工学部, 助教 (20750409)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 感覚処理感受性 / 抑うつ傾向 / 自殺予防 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年の本邦では、大学生をはじめとする若年層の自殺死亡率の高さが問題となっており、ほとんどの事例では抑うつ傾向の高さが関連することが指摘されている。国外の研究では、抑うつ傾向の低減に対して感覚処理感受性(以下、SPSとする)に注目した検討を行うことで、より効果的な支援を実施できることが示唆されている。SPSとは、刺激に対する敏感さや反応の大きさを表す個人の生得的な特性であり、ストレス対処などを介して、抑うつ傾向と正の関連を持つことが指摘されている。ただし本邦では、SPSのようなほぼ遺伝的に決定される要因に注目して抑うつ傾向の低減に向けた検討を行った研究の例は、これまで見受けられない。上述のような国外での知見を踏まえると、本邦においてもSPSに注目した検討を行うことにより、大学生における抑うつ傾向の効果的な低減に向けた示唆が得られ、最終的には自殺者数を減少させる方策を見出せるものと期待される。以上を踏まえ、本研究課題では、大学生のSPSに注目した抑うつ傾向の低減モデルを構築することを目的とする。具体的には、a)既存のSPS測定尺度には一部の因子で信頼性と妥当性に問題があること、b)SPSが抑うつ傾向の増大に関連する機序が不明であることを踏まえ、1)SPSをより精緻に測定する新たな尺度の作成(以下、研究1とする)、2)SPSと抑うつ傾向の関連に介在する諸要因の特定と、それらの要因間における機序の解明といった2点の研究を行う。 2018年度は研究1の目的に沿い、高いSPSを持つ大学生における心理的特徴の抽出するため、大学生約200名を対象とした自由記述回答形式の質問紙調査、および大学生2名に対して半構造化面接法によるインタビュー調査を実施した。その結果、SPSを測定する既存の尺度には反映されていない特徴を抽出することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
上述のように、2018年度は大学生約200名に対する自由記述回答形式の質問紙調査に加えて、大学生2名を対象としたインタビュー調査を実施した。これらの調査データの詳細な分析を通して、高いSPSを有する大学生がどのような心理的特徴を有するかについて丁寧な抽出を試みた。その結果、既存のSPS測定尺度に含まれる特徴に加えて、既存尺度には反映されていない特徴を抽出することができた。これらの知見は、既存尺度が有する妥当性や信頼性を超えたより精緻で信頼性の高い有用な尺度の作成に向けて、有用な情報になったものと考えられる。 研究計画当初の予定では、2018年度はこれらの知見を基にした新たなSPS測定尺度を作成し、横断的な質問紙調査を行うことで、その信頼性と妥当性を検証する見通しであった。しかしながら、2018年度は少数の調査協力者から得られたデータを詳細に丁寧に分析することを目指したため、インタビュー調査を実施した人数も2名と必ずしも十分なサンプルサイズとはなっていない。 以上のように、研究計画当初の予定と比較して、調査の実施状況はやや遅れており、研究成果の公表も国内外の学術会議におけるポスター発表3件にとどまっている。その一方で、上述のように自由記述回答形式の質問紙調査や、数少ない対象者に実施したインタビュー調査の結果からは有用な知見が見出された。したがって、研究期間全体から考慮した2018年度の進捗状況は、「やや遅れている」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度は、まずインタビューによる追加の調査を行い、前年度までの結果と比較することで、新たなSPSが高い大学生の心理的特徴を抽出できるか否かを詳細に検討した後、その結果を基にSPS測定尺度を作成する。次に、その尺度の信頼性および妥当性の検証を目的として、大学生400名程度を対象にインターネットを用いた質問紙調査を実施する。このインターネット調査と並行して、近赤外線分光法を用いた実験を行い、視覚刺激呈示時の生理的反応性と作成したSPS尺度得点との関連を検討することで、より高い妥当性の確保を目指す。ここまでの研究は、2019年12月までに遂行する予定である。当該年度においては、残りの期間において大学生約400名を対象に自由記述回答形式の質問紙調査を実施する。得られたデータはテキストマイニングにより分析される。この調査により、高いSPSを持つ大学生が、日常生活で経験するストレスに対してどのように対処しているのかを探索的に検討する。併せて、作成したSPS測定尺度を用いた調査を実施することで、高い精度で評価されたSPS値を基準とし、SPSが高い大学生と低い大学生におけるストレス対処の特徴を高い精度で検討できることが期待される。以上の調査を実施することで、SPSが抑うつ傾向の増大にどのように関連するかについての詳細な機序についての示唆を得ることができると期待される。 最後に、2020年度は上記の結果を基に、SPSと抑うつ傾向の関連に介在する諸要因と、その関連性における仮説モデルを構築する。大学生400名程度を対象に質問紙調査を実施し、各要因の包括的な関連について構造方程式モデリングを用いた検証を行う予定である。
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Causes of Carryover |
前年度予定していたインターネット調査を次年度に行うため、その費用を繰越しした。次年度の助成金と併せ、調査費用として支出する。
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Research Products
(3 results)