2021 Fiscal Year Research-status Report
Educational Application of Embodied Cognition Research on Upright Posture
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18K03082
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
菅村 玄二 関西大学, 文学部, 教授 (80511724)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 構成主義 / 身体性 / メタファー |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題では,身体的姿勢の物理的側面に焦点を当て,対自己的な機能の教育的応用をテーマとしてきた。しかし,その実験のなかでこれまで明らかになってきたことは,姿勢の変化が直接的にもたらす生理的変化(例,筋緊張,肺容量の増加など)だけでなく,姿勢変化に伴う筋感覚(自己受容感覚・固有感覚)や呼吸の変化への意識のあり方といった認知的な要素にも目を向ける必要性であった。また,このことは身体の動きを独立変数とした実験パラダイムにも再考を迫るものであり,身体化認知の研究の再整理も求められた。 そこで,本年度は,まず以前から行っている身体化認知に関する実験研究について文献をレビューするとともに,問題点を洗い直した。再現性の問題については,要求特性への対策から実験目的の偽装の仕方が巧妙化したことで,アーチファクトが増大したことが要因となっていると考えられ,古典的な内観報告などの今日的な意義が議論された。メタファーの観点からは,背筋を伸ばした「直立」(upright)の姿勢と背中を丸めた「前屈」(slumped)の姿勢が「上下」という垂直性スキーマだけでなく,実「直」や素「直」,またup"right"という肯定的な意味合いと結びついている可能性が議論された。 また,本研究テーマの思想的背景にある構成主義(constructivism)の観点から,身体感覚へ注意を向けるマインドフルネスについて検討し直すことにした。その結果,自己の身体と心理的な内部世界は主体にとって不可分な環境であり,「動き」という精神と身体を分け隔てない概念によって,身心一如に基づく人間理解が可能となることが再確認された。今後はこうした議論を踏まえて,身体への意識の向け方を独立変数もしくは媒介変数として加味するとともに,参加者の一人称的な体験を拾い上げる実験法へとシフトすべきである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
コロナ禍のなかでの対面での研究が障壁となり,研究が思うように進まない状態が続いている。本年度は,小学生を対象者とする予定であったが,感染状況が落ち着いているタイミングでも,地方の小学校に外部の者(特に感染者の多い他県民)が研究目的で入ることができないという事情があった。 大学でも,いかにして防音室での計測機器を用いた対面の個別実験を実施するかという問題を引き続き検討した。予備実験として,二酸化炭素濃度測定器により,換気状況を逐一モニターしたところ,実験者3名と参加者1名では二酸化炭素濃度がすぐに1,000ppmを超え,これまでどおりのやり方では安全に実験を実施することは難しいと判断した。実施者がZoomなどを通して遠隔で教示を行う方法も検討したが,それでも実験に必要な時間の間,十分な換気の実現はできなかった。実験室のリニューアルの予定もあったため,ひとまず,それを待つこととし,本年度は理論研究に従事することにした。
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Strategy for Future Research Activity |
研究の進展を妨げている問題は,ひとえにコロナ禍の社会的状況であるため,以前と同じような対面での活動が再開すれば,解決するものである。オミクロン株に入れ替わりが進む中で,感染者数よりも入院者数や重症者数が重視されるようになり,社会経済活動が正常化のほうに進んでいる2022年度は,少なくとも大学では感染対策をしながらの対面実験が可能になるのではないかと考えている。幸い,この間に,所属機関の研究環境の整備も進んだため,リニューアルした別の実験室(二箇所換気が可能)を使用する予定である。
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Causes of Carryover |
実験協力者への謝礼は,コロナ禍での制約により対面実験ができなかったために支出できず,同様の理由で学会や研究目的での移動や宿泊がなくなり,出張費を支出することもなくなった。研究が進展しない以上,article processing chargeも発生しなかった。次年度にまとめて実験を行うため,基本的にそこでの支出にこれらを回したい。また実験を再開するにしても,全部が対面では難しいことも判明し,一部はオンラインで実施する必要性が生じたことから,動画の処理や高速通信に対応したコンピュータも入り用となった。
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