2018 Fiscal Year Research-status Report
初学者における傾聴のうわすべりの解明とその回避のための臨床心理学的研究
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18K03153
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Research Institution | Tokyo Woman's Christian University |
Principal Investigator |
花田 里欧子 東京女子大学, 現代教養学部, 准教授 (10418585)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
入野 俊夫 和歌山大学, システム工学部, 教授 (20346331)
古山 宣洋 早稲田大学, 人間科学学術院, 教授 (20333544)
井上 雅史 東北工業大学, 工学部, 准教授 (50390597)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 傾聴 / 初学者 / うわすべり / 臨床心理学 / 臨床心理面接コーパス / 感情推移観測システム(EMO system) / 認知科学 / 聴覚・音声学 |
Outline of Annual Research Achievements |
現在まで、初学者における傾聴のうわすべりの解明とその回避について、臨床心理面接におけるセラピストの介入のタイミングやコンテクストがクライアントにもたらす心情を連続的に計測するという観点から研究をすすめている。本研究では、実験的に感情状態を検証するアプローチに注目し、聴いてもらえた、主訴が改善に向かっている、といった実感をクライアントに生起させる聴き方を傾聴とみなした。そして音声研究や感性工学のアプローチを取り入れ、「傾聴している-傾聴していない」といった面接についての実感を評価者に評価させ、傾聴の問題を実証的に明らかにした。具体的には、臨床心理面接コーパスならびにクライアントの実感を計測する方法として評価値を連続的に時系列で入力できる感情推移観測システム(以下、EMO system [EMOtional MOvement Observation system])を用いて、評価者によるクライアントの感情状態の評価を定量化した。 特に初年度となる2018年度は、そのためのアプローチとしてこれまで実施してきた実験について、東京女子大学心理臨床センター紀要において、以下の 3 つの観点からすすめてきた評価結果を報告することより、現時点での到達点と課題を整理した。まず、研究 1 において、臨床心理面接コーパスを対象としたEMO systemによる評価を試みることで、傾聴の連続的評価の実際を示した。次に、研究 2 では、研究 1 によって得られた傾聴の連続的な評価と、従来の要素的なタグ評価とを比較することで、EMO systemによる傾聴評価の特徴を示した。最後に、研究 3 において、EMO systemの評価者として、臨床心理士と初学者とを比較することで、評価者属性が傾聴評価に与える影響を示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
傾聴を進行中の臨床心理面接において生じる感情にかかわる連続的な事象としてとらえていくための評価の実際と課題について、東京女子大学心理臨床センター紀要で報告したことから、心理臨床の基礎研究とその応用の観点からレビューをうけることができた。そのなかで、評価者によるEMO評価値について、同一面接に対して評価しながら、事例ごとに評価者間で評価の仕方が異なっており、専門家間でも傾聴評価はばらつくことが明らかになった。傾聴の評価は一義的に規定されるものではなく、正解を定めにくい。一方で、概念の評価について様々な立場の評価者間の一致や不一致、変化の方向性の相違を議論し、そのことへの自覚を促すことは、面接の基盤的な理解や実践の幅を広げることとなる。二年目となる2019年度はこれをふまえて、連続評価手法を他に展開するための重要なステップとし、評価対象となるデータをさらに抽出・分析をすすめる。
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Strategy for Future Research Activity |
傾聴には文化的特徴が見られることを新たに確認しつつある。たとえば傾聴に際して、日本語母語話者ではセラピストは黙ってクライアントの話にうなずき相鎚を打つのに対し、英語母語話者ではセラピストは積極的にクライアントに質問したり確認したりしている。そのため日本語母語話者である初学者は、英語母語話者による臨床心理面接の教材等において、セラピストが傾聴していないように感じたりそのままクライアントに適用することに戸惑ったりといったズレが生じることがある。国内外の臨床心理面接の効果研究から、傾聴はセラピストやクライアントの関心・背景によらない最も基本的・普遍的な態度とされ、さらに文化をふまえた知識がエビデンスに基づき示される必要があるが、未検証のままであるため、本課題に比較文化の観点を導入することを今後の研究の推進方策とする。
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Causes of Carryover |
海外出張を予定していたが研究代表者の公認心理師試験受験と重なり中止とし、2019年度に延期することになった。
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