2018 Fiscal Year Research-status Report
Psychophysical research on bodily visual illusions caused by clothing
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18K03175
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
森川 和則 大阪大学, 人間科学研究科, 教授 (70312436)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 服装 / 錯視 / 体型 / 視知覚 / 着やせ / 着太り / 脚の長さ |
Outline of Annual Research Achievements |
服装で体型が実際よりスリムに見えるとか脚が長く見えるという視覚効果は目の錯覚(錯視)を活用している。現代において服装文化が興隆している理由の一つは服装により体型を実際より良く見せることができるからである。しかし、服装による錯視効果は従来の知覚心理学ではほとんど研究されてこなかった。そこで心理物理学的測定方法を駆使して服装による錯視量を測定することで、体型の錯視が生じる刺激条件を定量的・体系的に検証・解明する。従来「センス」とか主観的経験則でしか語られなかった服装による見た目の改善法という感性的問題にこの研究は科学的な証拠と理論を与えることが可能になる。 しかし、異なる服装により体型がどう変わって見えるかを研究する上で最も困難なことは実験刺激画像のコントロールである。例えば形状は同じで模様だけが異なる衣服の効果を測定しようとしても、現実の衣服では着用時の布地のシワやヒダが異なるので錯視量に影響し厳密な比較ができない。服装シミュレーション専用の3Dコンピュータグラフィクスを用いることで、衣服の色・模様は変えても布のシワ1本、ヒダ1つまで完全に同一形状にすることが可能である。3Dコンピュータグラフィクスによる完璧な刺激統制と厳密な心理物理学的測定方法を組み合わせて、従来は不可能であった精度で錯視量を測定することを目指した。 服装シミュレーション専用の3Dコンピュータグラフィクスとしてデジタルファッション株式会社に協力を依頼した。今年度はまず、シャツをスカートの外に出す場合とシャツをスカートの中にタックインする場合とで、胴体の痩せ度合・太り度合の見た目および脚全体の長さの見た目がどのように変化するか、さらにスカートの長さによって脚全体の長さの見た目がどのように変化するかを定量的に測定した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
服装シミュレーション専用の3Dコンピュータグラフィクスとしてデジタルファッション株式会社に協力を依頼し、着衣の人物画像を作成した。今年度はまず、シャツをスカートの外に出す場合とシャツをスカートの中にタックインする場合とで、胴体の痩せ度合・太り度合の見た目および脚全体の長さの見た目がどのように変化するかを測定した。そのために標準刺激としては日本人女性の平均体型の人物をベースとして、シャツ・スカートそれぞれが白または黒で、シャツのタックインあり・なしの画像を作成した。比較刺激としては「着やせ錯視」用には、日本人女性の平均体型を中心として痩せ体型から太り体型までバスト・ウェスト・ヒップを2cmステップで変化させた全身タイツ姿の人物画像を作成し、「脚長錯視」測定用には日本人女性の平均の脚の長さ70cmを中心として脚の長さが59cm~82cmの範囲内で1cmステップで変化する画像を作成した。また、さらにスカートの長さによって脚全体の長さの見た目がどのように変化するかを定量的に測定する実験ではスカートの長さを3通りにした人物画像を標準刺激として用いた(比較刺激は「脚長錯視」実験と共通)。 実験方法は心理物理学的測定法の一つであるコンピュータ制御の階段法(上下法)を用いて、標準刺激と同じ体型に見える比較刺激(主観的等価点)を算出した。 実験の結果、下記の事実が明らかになった。女性のシャツ・ブラウスをスカートの外に出す場合と比べると、スカートの中にタックインするだけでバスト・ウェスト・ヒップが1.3cm細く見え、脚は7cmも長く見える。また、スカートが膝下10cm丈の場合と比べて膝上10cmの場合に脚は4cm長く見えることも判明した。 これらの服装による体型錯視は Morikawa(2017)の提唱したアモーダル補完の錯視効果として説明できる。
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Strategy for Future Research Activity |
今回の実験では、事前の仮説を支持する結果が得られたので、研究の方法論と方向性が正しいことが実証された。したがって、現在の研究を継続・発展させていく。また、服装の形状の効果に加えて、服装が上下白の場合と比べて上下黒の場合のほうがスリムに見える効果も検証された。すなわち服装の明度・色相が体型知覚に影響する可能性が示された。今後は服装の明度・模様が体型知覚にどのような錯視効果を及ぼすかを検討したい。 明るい色・暖色が膨張色、暗い色・寒色が収縮色として知られているが、その効果を定量的に検証した研究はまだない。また、服の一部のみに暗い色を用いるとか、図形パターン(縞模様、水玉模様など)による錯視効果など検証するべき服装は無限にあるので、体系的に絞り込んで錯視量を測定し、理論化することを目指したい。 初年度は学会発表・論文投稿を行なう時間がなかったが、2年目は初年度の研究成果を学会で発表し、学術誌に投稿していくことはもちろんであるが、新聞・雑誌・テレビなどのメディアを通して社会への発信も積極的に行なっていきたい。
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Causes of Carryover |
平成30年度は海外の国際学会出張旅費を別の財源から捻出できたことで約40万円を節約した。さらに当初は新しいパソコンを購入予定であったが実験用ソフトウェアとの互換性の問題から購入を1年間延期することにしたため約30万円が余ることになった。残額を無理に使い切るよりも次年度に充てるほうが有効であると判断した。この金額は次年度に服装画像作成のための3Dコンピュータグラフィックスの強化費用に充てるとともに、国際学会出張旅費とパソコン購入費に充当する予定である。
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