2019 Fiscal Year Research-status Report
モチーフのL関数とレギュレーターの特殊関数論的な研究
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18K03234
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
大坪 紀之 千葉大学, 大学院理学研究院, 教授 (60332566)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | モチーフ / 周期 / 虚数乗法論 / 超幾何関数 / レギュレーター |
Outline of Annual Research Achievements |
アーベル型のCMモチーフの周期に関するBruno Kahn氏との共同研究を、昨年度に引き続き行った。2019年9-10月にKahn氏を千葉大学に招聘し、集中的に討論を行った。その結果、アーベル型のCMモチーフのp進周期について、複素数体上の場合と同様に、p進周期をp進ベータ関数を用いて記述する公式を得た。ここで、p進ベータ関数とは、フェルマー多様体のp進周期を用いて定義される新しい関数である。また、p進周期とヘッケ指標の関係を明らかにした。この共同研究については、2020年2月にジュシュー数学研究所(パリ、フランス)でも討論を行い、同研究所の「数論セミナー」において講演を行った。 また、有限体上の超幾何関数と複素数体上の超幾何関数をつなぐ、超幾何モチーフを定義し、p進ホッジ理論を用いて、新しいp進超幾何関数を定義した。ここでは、一般のパラメーターを持つ一般超幾何関数pFqを扱っている。この研究について、2020年2月に、ガラタサライ大学(イスタンブール、トルコ)での国際研究集会おいて、招待公演を行い、F. Beukers氏らと討論を行った。 2019年9月に、3回目となる国際研究集会「Regulators in Niseko 2019」を開催した。ここでは、モチーフとL関数に関して、国内外のトップレベルの研究者との研究交流を行い、貴重な知見を得ることができた。 さらに、古典的なガウス超幾何関数論に関しても、様々な変換公式を統一的かつ簡明に理解、証明する方法を与え、プレプリントとして発表し、学術誌に投稿中である。この研究については、2019年10月に東北大学における国際研究集会でも発表し、R. Zudilin氏らと討論を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
Bruno Kahn氏との共同研究では、必ずしもアーベル型とは限らない代数的なCMモチーフに対してもいくつかの結果が一般化された。また、代数的なCMモチーフのp進周期に関する理論も、p進ホッジ理論を用いて定義されるp進ベータ関数によって理解できるようになった。これらは研究開始時の想定以上に広がった部分である。この研究はまとまってきたので、現在論文を執筆中である。 超幾何関数の変換公式は、数論的に重要で、楕円関数や保型形式と深い関係がある。これまで19世紀以来、様々な方法で発見、証明されてきたが、各公式に特有の議論を用いたり、計算機に頼るものが多かった。本研究では、種々の公式を統一的に理解し、容易に(計算機なしで)証明できるようになった。この方法は本研究と直接関係するものではなく、計画時には想定していなかったものである。しかし、数論的に重要なL関数の特殊値の計算において現れる超幾何関数の変換公式を吟味する中で発見された。このような簡明化は、他の場合にも有用であり、数論的な応用があると期待できる。 さらに、q超幾何関数の差分方程式に対しても、ヤコビ型の新たな標準形を与え、それを用いてHeineの変換公式の新証明を与えた。さらなる一般化や応用が期待できる。 有限体上の超幾何関数の研究から、超幾何関数を周期にもつモチーフの研究に発展した。モチーフとは代数的多様体の「直和成分」であり、様々なコホモロジーが付随する。それに関する不変量として、古典的な一般超幾何関数と有限体上の一般超幾何関数が現れる。逆に、p進ホッジ理論を用いて、上記のモチーフのp進周期としてp進超幾何関数を定義した。これはBruno Kahn氏との共同研究から派生したアイディアである。
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Strategy for Future Research Activity |
Bruno Kahn氏とのアーベル型のCMモチーフの周期に関する研究は、結果を論文にまとめて公表する。また、研究集会等で発表し、他の研究者と討論を行う。さらに、レギュレーターの記述への応用を研究したい。オンラインによる討論、打ち合わせを継続するとともに、必要に応じてKahn氏を訪問、または招聘して討論を行う。 超幾何関数の変換公式についても研究を継続する。特に、一般超幾何関数pFqへの一般化や、Appell、Lauricellaなどの多変数超幾何関数への一般化とその応用について考察する。 超幾何モチーフの研究は始まったばかりで、2次元以上の場合には課題が多く残っている。例えば、コホモロジーの次元の決定、基底の明示的な表示などが必要である。特に、そのp進的なコホモロジーを調べ、Dworkの古典的なp進超幾何関数との関係、最近の朝倉政典氏による、log型のp進超幾何関数との関係、有限体上の超幾何関数との関係、また、複素体上の場合との類似などを研究する。 超幾何モチーフの特別な場合として、楕円曲線やより高次元のカラビ・ヤウ多様体が現れる。そのような場合には、モチーフに対応する保型形式がわかっている。そのような場合に、保型形式のL関数の整数点における特殊値を、一般化された超幾何関数を用いて解析する。一方、レギュレーターに関しても、モチーフ的コホモロジーに性質の良い元を構成し、そのレギュレーターの超幾何関数による表示を試みる。そして、Beilinson予想など重要な問題への応用を探る。
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Causes of Carryover |
当初の予定になかった2020年2月のパリ(共同研究、セミナー講演)とイスタンブール(研究集会講演)が決まったため、20万円の前倒し支払い請求を行って、研究を遂行した。年度末が近かったため、全ての経費を正確に見積もることが困難であり、14,981円の残額が生じた。この残額は、翌年の研究計画に沿って適切に使用する。
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Research Products
(9 results)