2019 Fiscal Year Research-status Report
保型多重L-関数と保型多重ポリログのアソシエーション
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18K03260
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Research Institution | Kindai University |
Principal Investigator |
井原 健太郎 近畿大学, 理工学部, 准教授 (00467523)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | multiple L function / multiple zeta values / elliptic modular form / harmonic product |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では, 多重ゼータ関数の理論をモデルとして, 従来の保型形式に付随する L-関数の理論の「多重化」を構築することを目標にしている. その重要な課題として, 保型多重L-関数 の正整数点における特殊値「保型多重L-値」の生成する代数「周期代数」の構造を決定する問題を考える. 本研究では, 多重ゼータ理論で大きな役割をもつDrinfeldアソシエーターと多重ポリログをモデルにして,「保型版アソシエーター」と「保型多重ポリログ」を新たに導入することで,「周期代数」の構造を解明しようと考えている. 本年度の研究実績として, 多重ゼータ値を筆頭とする種々の多重化されたゼータ関数やL関数が満たす「調和積」の根本的な構造について進展が得られた. この調和積は上記の保型多重L-値「周期代数」には直ちには備わらない積構造であるが, Rankin convolutionと呼ばれる操作で得られる保型形式のL関数の多重化と関係することが期待される大事な構造である. 近畿大学の中村弥生氏との共同研究により, 多重ゼータ値の深さ分の変数をもつある基本的な多変数有理関数の系列を見つけ, 従来の多重ゼータ値の調和積が, 実はその有理関数同士の積から導出できることを解明した. この結果については論文「Integral representation of interpolant of multiple harmonic sum」を中村氏と共同執筆中である. また昨年度, 近畿大の関谷氏との共同研究として得られた, ベルヌーイ数の計算方法である秋山・谷川アルゴリズムに現れる2重数列の母関数の明示公式に関する論文が近畿大学理工学総合研究所紀要「Science and Technology」No 31, 2020, pp1--3. に掲載発刊された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今までのところ1,2年目の研究計画に従って, 研究をおおむね進められている. 本研究に関連する他の研究者との議論や講演聴講を通して, 最新の研究内容や情報の収集, 関連理論の習得や新たな問題の模索などに役立てている. 本研究の課題である, 楕円保型形式のEichler積分の反復 積分の導入, またその母関数の持つ性質の解明などの進展が昨年度までに得られている. さらに上述の通り最近, 種々の多重ゼータ値のもつ調和積に関する根本的で新しい知見を共同研究により得ることができた. それに関しては共同研究者の中村氏が令和元年11月に京都大学数理解析研究所における研究集会「多重ゼータ値の諸相」において「An interpolation function of truncated multiple zeta values」と題した成果発表を行っており, 有限多重ゼータ値の補間関数の調和積に関して, 最近の進展状況や今後の課題を専門家の前で報告することができた. この結果については共著論文「Integral representation of interpolant of multiple harmonic sum」を中村氏と準備中である. 令和元年12月には, 九州大学の村上氏を招き Multiple t-valueと呼ばれる多重ゼータ値のある種の部分和で与えられる数に対するHoffman予想についての議論を行った. 本研究の主題である「保型多重L-値」に関連する最近のF. Brownによる結果とも関連し, 新たな問題の模索などに役立てることができた. 令和2年2月には近畿大学にて多重ゼータ値に関する研究集会「関西多重ゼータ研究会」を開催し, 多くの研究者から最新の研究内容や情報の収集を行うことができた.
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Strategy for Future Research Activity |
1つの研究として, 保型多重L-値の無限和を有限和で止めた有限多重L-値の基本性質を考察する予定である. 多重ゼータ値の場合は, 有限版が早くから定義されその数の素数を法とした振る舞いが研究されており, 全ての素数に関する情報を束ね合わせた「有限多重ゼータ値」が昨今研究されている. 保型版については, 出発点としてまずレべル1のRamanujanデルタ関数に付随する保型多重L-値の有限版を考察すべきと考えている. 古典的に保型形式のフーリエ係数そのものの, 素数法の下での挙動については保型性との深い関係が知られている. 以前の研究の結果として得られているRamanujanデルタ関数に付随する保型2重L-値の間の関係式とも照合し, 有限多重ゼータの保型版が妥当な考察対象かから見定めたい. 保型形式のフーリエ係数を有限多重ゼータとの絡みの視点でみた研究は, あまり聞かないので様々なデータを集めながら, データ観察からの出発と考えている. 数式処理ソフトも多用しながら様々なデータを取ってみたい. もう1つの研究として, 秋山・谷川アルゴリズムによるベルヌーイ数の計算方法に関連する2重数列の母関数に関する研究を行う. 上述の関谷氏との研究で, このアルゴリズムに現れる2重数列の母関数がある偏微分方程式を満たすが, この結果に直接関連する研究を行っている研究者との議論により, さらに広いクラスで同種の偏微分方程式を満たす母関数と対応する数列が存在することが明らかになりつつある. この共同研究を進め, 共著論文を作成予定である.
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Causes of Carryover |
令和元年度内に於いて, 本研究に関連する研究者を招いての講演会, 研究討論会を計画し, そのための旅費と謝金として複数名の研究者分の当該予算を確保していた. 研究討論会は開催したが, 一部の参加者が自身の研究費で旅費を支出したため, 当該予算の執行ができなかった. また, 年度末に参加を予定していた研究集会が, 新型コロナの影響により, 急遽取りやめになったためその分の旅費の執行ができなかった. 令和2年度に開催予定の研究討論会の旅費, 謝金等に使用する計画である.
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Research Products
(1 results)