2018 Fiscal Year Research-status Report
Research on quantum walks from the viewpoint of operator algebra
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18K03325
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
酒匂 宏樹 新潟大学, 自然科学系, 准教授 (70708338)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 量子ウォーク / 作用素環 / 複素解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
2018年度は本課題研究の初年度に当たる。数学、とくに量子ウォークの研究を行い、予想以上の成果を得ることができた。まだ学術雑誌にアクセプトされた論文はないものの、3編のプレプリントを作成することができた。現在、その内2編を学術雑誌に投稿しているところである。 量子ウォークのうち特に空間一様量子ウォークの研究に多くの時間を割いた。一次元格子Z上の量子ウォークについては先行研究が多くあるが、その基礎付けは不十分であった。本研究では、まず量子ウォークの定義を与えることから着手した。この定義で用いられている条件---解析性---は非常に弱いため、これまでに研究されてきた量子ウォークについてはもちろんのこと、これまでに研究されてこなかった作用素についても量子ウォークの枠組みでとらえることが可能になった。 空間一様量子ウォークの構造定理を示すことに成功した。空間一様量子ウォークはこれまでにもたくさん研究されてきたが、その直和分解や、既約性・非既約性については議論されてこなかった。一次元格子上の空間一様量子ウォークについて、その原子とも言うべき量子ウォークについてモデル量子ウォークという名前をつけた。新しい構造定理では、すべての一次元空間一様量子ウォークがモデル量子ウォークの直和に分解できることを証明できた。 一次元空間一様量子ウォークの直和因子であるモデル量子ウォークに着目すると、与えられた量子ウォークが連続時間量子ウォークであるのか、そうでないのかを判定すること画できる。物理学への応用を考えると、これはきわめて重要な成果ではないかと、私は考えている。 続いて、空間非一様、および空間一様量子ウォークについて共通する性質を示すことができた。この研究課題については今後も成果が得られることを期待できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
研究は当初の予想よりも順調に成果が得られている。量子ウォークを定める作用素の解析性に注目するという新しい発想得たが、これが研究が進展した第一の要因である。一次元格子Z上の空間一様量子ウォークについて、そのフーリエ双対を考える研究は従来からある。しかしながらそのフーリエ双対についての解析性に注目する先行研究はなかった。 解析性に注目することで、あらゆる解析的な空間一様量子ウォークについてそのフーリエ双対が局所的に対角化可能であることを示すことができる。その対角成分である、固有値関数は一次元トーラスTから一次元トーラスTへの解析関数を与えるが、その回転数によって、空間一様量子ウォークが連続時間で実現可能かどうかが判定できた。この研究成果には物理学的な意義がある。 このように、一次元空間一様量子ウォークから研究成果を得ることができたが、そこで得られた洞察を元に、二つの方向で更なる研究成果を得ることができた。一つ目は空間非一様量子ウォークの漸近挙動に関する研究成果であり、もう一つは多次元格子状の量子ウォークの漸近挙動に関する研究成果である。それぞれ論文の執筆も順調に進行して、2編のプレプリントを公表することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は解析性に注目することにより、一次元空間一様量子ウォークから研究成果を得ることができたが、そこから二つの方向で更なる研究成果を得ることができた。一つ目は空間非一様量子ウォークの漸近挙動に関する研究成果であり、もう一つは多次元格子状の量子ウォークの漸近挙動に関する研究成果である。この両方において更なる研究成果を得るべく、研究を進める。 まず、一次元格子Z上の空間非一様量子ウォークの漸近挙動についてである。この種の量子ウォークについて漸近的にコンパクト台を持つことを示したが、極限分布の存在は一般には言えない。しかし、これは一次元格子Zに通常の距離を導入した場合の話である。一次元格子Z上には絶対値で与えられる距離以外の距離が導入可能である。それらの距離のうち、Zの大規模構造を保つような距離に着目したい。私はこれまでに、距離空間の大規模構造の研究にも携わっており、そこで培った知見を活かしていきたい。通常とは異なるものの、大規模構造が通常の距離と一致するようなZ上の距離のうち、量子ウォークに極限分布を与えるようなものが存在するかどうか、検証をしていきたい。 つづいて、高次元格子上Z^n上の空間一様量子ウォークについて、その構造の研究を進めて活きたい。高次元の空間一様量子ウォークについてはそのフーリエ双対を考えることができる。さらにそのフーリエ双対について解析性を考えることができる。フーリエ双対の固有値は高次元の解析的部分集合を定めるが、その構造は代数幾何学的な考察により、構造を明らかにすることが可能かもしれない。今後も検証を重ねていきたい。
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Causes of Carryover |
本研究の計画では当初、様々な研究者・研究機関を訪ねて情報収集を行う予定であったが、解析性に注目するという発想を得たことにより、情報収集を行わなくても多くの研究成果を得ることができた。また個人的な家庭の理由によって、勤務先および自宅から離れるのが困難になった。そのため、当初の予定よりも旅費の支出が大幅に少なくなった。 しかしながら、今後の研究の進展のためには、作用素環論、作用素論、複素解析学、代数幾何学、などについて情報収集を行う必要があるため、旅費や書籍の購入費用が必要になる。
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