2021 Fiscal Year Research-status Report
Research on quantum walks from the viewpoint of operator algebra
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18K03325
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
酒匂 宏樹 新潟大学, 自然科学系, 准教授 (70708338)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 量子ウォーク / 分類 / 解析性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究のテーマは量子ウォークである。量子ウォークはランダムウォークの量子版とも言われるものである。通常の古典的ランダムウォークでは、各時点および地点においてどちらの方向に進むのかが、コイントスのような古典的な確率変数によって決定される。その一方で量子ウォークでは、ユニタリー行列、より一般の枠組みではユニタリー作用素によって与えられれる。量子ウォークの研究は量子物理学との関連が深く、さまざまなバックグラウンドを持つ研究者が関心を持っている。 各時点における時間的変化が古典的確率現象によって与えられる過程と、量子物理学的な遷移によって与えられる量子ウォーク、この差異は決定的なものであり、両者の性格を大きく異らせている。古典的ランダムウォークでは確率分布の標準偏差が経過時間の平方根に比例するが、最も代表的な量子ウォークでのそれは経過時間そのものに比例する。これは量子ウォークの最大の特徴であり、線形的伝搬と呼ばれている。量子ウォークの第二の特徴は、局在化が起こり得るということである。各地点及び各時点における遷移が非自明なユニタリー行列で与えられているにも関わらず、量子の存在確率がある地点に停留し続けるような量子ウォークが存在する。このような現象を局在化という。 古典的な確率現象は多くの研究者によって研究され、さまざまな解析が行われてきた。その一方で量子ウォークの研究はまだ日が浅く、解析が容易な具体的な量子ウォークを徹底的に解析する研究がこれまでの主流であった。本研究課題では、新たな視点を量子ウォークに導入したい。量子ウォークが全体としてどれくらい多様なのか、どれほど多くの現象を量子ウォークが記述できるのかについて研究いたい。この方向性での研究の準備として二つの取り組みが必要である。それは量子ウォークの定義を明確にすること、及び量子ウォークを分類することである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は量子ウォークの定義を与えること、及び量子ウォークの分類を行うことの二方向で研究をおこなった。 量子ウォークの従来の研究では、解析が容易な具体的な量子ウォークを一つ一つ解析することが主流であった。しかしながら、量子現象を記述するという、量子ウォークの本来的な動機に即して考えると、どれほど多くの現象を量子ウォークで記述できるのかという視点の方がより本質に即しているのではないだろうか。量子ウォークがどれほど多様であるかという探求をする必要がありそうである。そのためにはまず量子ウォークとは何であるか、その定義を明確にする必要がある。本研究では量子ウォークを「ヒルベルト空間H、Hに作用するユニタリー作用素、H上の直交射影に値を取るユークリッド空間R^d上のスペクトル測度E」の三つ組で定義するのが良いのではないか、という提案を行った。量子ウォークを研究する上では、何らかの観測可能量の確率分布が与えられる必要がある。量子状態はHの長さ1のベクトルで与えられ、スペクトル測度Eと合わせて確率分布が与えられる。Uは時間的遷移を与える作用素である。 このようにして、量子ウォークを扱う非常に一般的な枠組みが出来上がったわけだが、次に取り組むべきは、二つの量子ウォークが本質的に同一であるとはどういうことであるか、についての数学的な条件を明確にすることである。換言するならば、これは量子ウォークを分類するための手法を明確にすることである。 本研究では量子ウォークの分類に取り組み、一次元空間一様解析的な量子ウォークについては円周上の多価解析関数をindexとするような分類が可能であることを証明した。照明においては量子ウォークのフーリエ変換と、その複素関数論的な解析が有用であった。その一方で多次元量子ウォーク、空間非一様量子ウォークの分類で困難に直面した。今後の更なる取り組みが必要である。
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Strategy for Future Research Activity |
多次元量子ウォークの分類を進めるための方策を模索する。一次元空間一様量子ウォークの分類においては、一変数の複素関数論が有用であった。それを踏まえると、多次元の場合には多変数複素関数論が有用となるだろう。また、複素変数の代数幾何学的な知見も必要となるかもしれない。いずれにしても、書籍や論文の読解、といった情報収集が必要となるだろう。 空間非一様な量子ウォークの分類においては、議論の抽象性が増すが、これらの量子ウォークにフーリエ解析的な変換を施すような研究手法は困難かもしれない。関数解析的な手法が有用となるかもしれない。 新型コロナウイルスの蔓延状況を見ながら、可能であれば量子ウォーク関係の研究集会に参加し情報収集を行いたい。また、得られた研究成果を積極的に公表し、他の研究者からの反響を得たい。
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Causes of Carryover |
少額であるが、次年度使用額が生じた。無理に使用するよりも、次年度に残し、研究の進捗状況を見ながら、適切な使用方法を探したい。
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