2021 Fiscal Year Research-status Report
1階偏微分方程式系のスペクトル解析の新展開:ディラック、マックスウェルを超えて
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18K03340
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Research Institution | University of Hyogo |
Principal Investigator |
楳田 登美男 兵庫県立大学, 理学研究科, 特任教授 (20160319)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山岸 弘幸 東京都立産業技術高等専門学校, ものづくり工学科, 准教授 (10448053)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | Dirac 方程式 / Maxwell 方程式 / 1階偏微分方程式系 / 極限吸収原理 / 平滑化評価式 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、新しいクラスの1階偏微分方程式系に対して、極限吸収原理、スぺクトル密度関数のヘルダー連続性、及び平滑化評価式を導くことである。本研究で取り扱う1階偏微分方程式系は、これまでのスペクトル解析学では論じられたことのないクラスであり、その故に、上に述べた3つの目的のいずれか一つでも導出に成功すれば、十分な成果になるものと考えている。
Dirac方程式、Maxwell方程式の両方の一般化となる1階偏微分方程式系を考察する点が、本研究のポイントであって、この観点から、本研究の初年度である2018年度は、Dirac方程式、Maxwell方程式の両方のスペクトル解析の過去の研究論文を見直し、本研究の考察対象が1階偏微分方程式系の新しいクラスであることを確認した。これに基づいて、2019年度は、Dirac方程式の解に対して平滑化評価式の導出の研究に歩を進めて成功した。Dirac作用素に対する極限吸収原理そのものは1970年代に見出されており、現在では新しい成果ではないが、従前の研究では平滑化評価式に繋がらない形の極限吸収原理であった。そこで、本研究では異なるアプローチを採用した、すなわち、Dirac作用素のスペクトル関数の評価に基づいて極限吸収原理を確立し、さらにスペクトル測度、スペクトル密度へと研究を進め、最終的にDirac方程式の解に対する平滑化評価式を導出した。2020年度 はMaxwell方程式に対しても、本研究の手法が通用することを確認し、Maxwell方程式に対しても極限吸収原理、スペクトル測度の表示、スペクトル密度関数のヘルダー連続性、及び平滑化評価式に関する成果をあげた。最終年度である2021年度は、相互に全く異なる2種の1階偏微分方程式系であるDirac方程式、Maxwell方程式の両方を包含する統一理論を目指した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
Dirac作用素に対する極限吸収原理は1970年代に見出されていたが、当時の研究は平滑化評価式に繋がらないものであった。実は当時、平滑化評価式そのものが知られていなかった。 このような状況を受けて、2018年度に従前の極限吸収原理の手法を見直し、2019年度に一般的手法でDirac作用素に対する極限吸収原理を確立し、さらにスペクトル測度、スペクトル密度関数へと研究を進め、平滑化評価式を導いた。2020年度には同じ一般的手法を用いて、同様の結果をMaxwell方程式に対して得た。この時点で、本研究の一般的手法が、Dirac方程式、Maxwell方程式の双方に対して、 有効であることが確認された。
以上の進展状況を受けて、2021年度は、定数係数強伝播型1階偏微分方程式系の中でも、非斉次形と呼ばれるタイプの作用素を研究した。このタイプは、Dirac方程式、Maxwell方程式 の両方を包含している。初めに、準備作業として、斉次形について極限吸収原理の確立、スペクトル測度、スペクトル密度の表示について調べ、成果を得た。さらに、等方的と呼ばれる性質を持つ場合には、平滑化評価式を導くことに成功した。ここまでは、あくまで準備であり、本来の目的は非等方的な場合である。この場合には、特性根、及び初期データがある種の仮定を満たす場合には平滑化評価式が成り立つことを証明した。これは新しい成果であり、「研究実績の概要」の項目でも述べた3つの目的と照らして、一定程度以上の成果が得られたと考えている。このような理由で「おおむね順調に進展している」との評価を選んだ。
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Strategy for Future Research Activity |
Dirac方程式、Maxwell方程式の両方を包含するようなタイプの一般の定数係数強伝播型1階偏微分方程式系に対して、極限吸収原理の確立、スペクトル測度、スペクトル密度の表示、および平滑化評価式の導出を完全な一般性の仮定のもとで行うことが望まれる。上記の項目【現在までの進捗状況】で述べたように、等方的な場合には満足いく成果が得られたが、非等方的な場合の成果は完全に満足いくものであるとは言えない。とは言え、非等方的な方程式系は全く新しい研究対象であって、既存の研究成果が存在せず、本研究の成果は新しいものである。しかし、さらなる発展の余地があるのも事実である。すなわち、非等方的な場合に、特性根、初期データに関する条件を仮定することなく平滑化評価を導くのが望ましい。
非等方的な場合の困難は、特性根が交差する点にある。専門的になるが、特性根が交差するような点の集合は角のある多様体になり、状況が非常に複雑である。複雑さは、空間次元が高くなるほど増すことが経験的に知られている。そこで、一時退却して、空間次元=2の場合から始めるのも一案であろうと考えている。空間2次元の場合には、多様体を視覚的に捉えやすいからである。場合によっては、非等方的な定数係数強伝播型1階偏微分方程式系のサブクラスを導入して、詳しく調べるつもりである。このような試みの後に、空間3次元の場合の取り扱いに対する洞察が得られることを期待している。過去の経験から、空間3次元の場合を突破出来れば、一般の空間次元の研究に繋がることが多い。万が一、このストーリー展開が破綻した場合には、非等方的な定数係数強伝播型の攻略は止めて、等方的な場合に退却して、未知のスペクトル的性質の探求へと軌道修正する可能性も検討している。
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Causes of Carryover |
本研究では、支出のほとんどを占めるのは旅費である。しかし、2020年度に続き2021年度もコロナ感染症蔓延のために、海外出張、国内出張ともに出来なかった。また、2022年3月に主催した国際研究集会「偏微分方程式姫路研究集会」もオンラインでの開催となり、支出は不要であった。
2022年度は9月6日から10日の日程でクラコフ(ポーランド)で IWOTA コンフェレンス - 作用素論関連の学会 - が今のところ対面開催の予定なので、参加の予定であり、その旅費に当てたい。また、9月26日から30日の日程でオルデンブルグ(ドイツ)で国際学会 「漸近解析とスペクトル理論」 が予定されており、これにも参加予定である。状況が許せば、Ben-Artzi教授(イスラエル・ヘブライ大学)や Schmidt教授(イギリス・カーディフ大学)を訪問して、研究打合せを行いたいと考えている。国内では、対面で実施される研究集会であって、本研究課題と関連するものについては、可能な限り参加したい。
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