2018 Fiscal Year Research-status Report
Semiclassical analysis of sprectral and scattering problems on energy-level crossings
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18K03349
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
渡部 拓也 立命館大学, 理工学部, 准教授 (80458009)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | エネルギー交差 / レゾナンス / 準古典解析 / 超局所解析 / WKB解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
2018年度の主な研究成果のひとつは、エネルギー交差における量子共鳴の準古典分布に関する共同研究(藤家-Martinez-渡部)である。また、エネルギー擬交差における2準位遷移確率の断熱極限に関する共同研究(渡部-Zerzeri)についても進展を得た。 前者は、エネルギー交差レベルの量子共鳴に関する我々の先行研究に続き、エネルギー交差より高いレベルの量子共鳴について考察したものである。具体的には、特性曲線どうしが共通部分を持つような定常のシュレディンガー方程式を連立させた行列値作用素の固有値問題を調べたものである。準古典極限下において、シュレディンガー方程式の対応する捕捉された古典軌道は、量子共鳴と密接な関係があることが共同研究者らの先行研究により明らかにされている。この研究で扱ったものは、単独にはない連立ならではの捕捉軌道が現れることから、その研究意義は大きい。さらに物理的にも重要な量子共鳴の虚部が、準古典パラメータの多項式オーダーであることを示した本研究は、指数的に小さいことを示した既存の結果と比較して、量子共鳴に関する準古典解析における重要な結果である。 一方後者は、2準位エネルギーの時間発展を記述する常微分方程式(時間依存シュレディンガー方程式のモデル方程式)を介し、一位の変わり点が合流する場合に、完全WKB解の接続を調べたものである。断熱パラメータが準古典パラメータに相当し、擬交差のギャップを表すパラメータが変わり点の合流を記述するパラメータに相当するという2パラメータ問題であるということが、この問題の数学的な意義である。変わり点の合流という完全WKB解析のひとつの重要な課題を、超局所的な標準形への変換という立場で議論し、2パラメータ問題ならではのパラメータの関係を詳細に調べることに成功したという点は、その重要性を評価し得ると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
概ね順調に進展していると評価した大きな理由は、本研究課題のひとつである「エネルギー交差における量子共鳴の準古典分布に関する共同研究(藤家-Martinez-渡部)」において、エネルギー交差より高いレベルでの量子共鳴の準古典的な漸近分布を得ることに成功した点である。我々の先行研究では、対角成分に当たる単独のシュレディンガー作用素の楕円性が効果的に働き、その基本解を用いた逐次近似解の構成を可能にしていた。しかし、今回のケースではエネルギー交差の近くで楕円性が失われるため、新たな方針を見出す必要があった。実際、相空間上での特性曲線の交差が横断的であることに着目し、超局所的な解の接続によるアプローチを採用し、解決に至ることができた。現在投稿中のこの結果は、本研究課題が順調に進展していると評価できる点である。 一方、「エネルギー擬交差における2準位遷移確率の断熱極限に関する共同研究(渡部-Zerzeri)」については、昨年度までに得られた結果をより精密に解析することに成功した。しかしながら、現在プレプリントとして纏める状況に留まっている点は、省みるべき点と評価している。 磁場付きシュレディンガー作用素の強磁場極限に関する共同プロジェクト(Dimassi-吉田-渡部)については、立命館大学の吉田氏が、1次元の場合について、詳細に調べ、論文投稿に至っている。この研究を足掛かりに、今後の研究に繋げていくことができれば、本研究課題申請時に記載したこの共同プロジェクトの見通しも明るい。
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Strategy for Future Research Activity |
エネルギー交差における量子共鳴の準古典分布に関する一連の共同研究(藤家-Martinez-渡部)で培われた手法は、2元連立の行列値シュレディンガー作用素の固有値問題に対して、新たなアプローチを与えるものであった。特に量子共鳴の準古典分布については、対応する捕捉された古典軌道と密接な関係があるが、2元連立のシュレディンガー方程式を対象とすることにより、単独のシュレディンガー方程式では実現できないような幾何学的構造をもった様々な捕捉軌道を考察することができる。これらを新たな課題に見据えることは、この研究の流れとしては自然である。 またエネルギー擬交差における2準位遷移確率の断熱極限の問題については、今後取り組むべき課題がふたつある。ひとつは、接触交差する場合について、エネルギーギャップを一般化することである。これは、変わり点の合流の自由度を上げることに相当し、WKB解析において非常に意義のある問題である。もうひとつは、エネルギーが2次接触交差する場合の擬交差間の断熱遷移確率である。この問題は、自身の先行研究で完全WKB法を適用することにより部分的に解決することができたが、エネルギーギャップを表すパラメータが断熱パラメータより十分速く小さくなる場合については未解決である。実際、渡部-Zerzeriで扱ったエネルギーが線形交差する場合とは異なり、超局所的な標準形が存在しないため、解決は難しいと考えられていた。しかし先の藤家-Martinez-渡部の手法を援用することで解決可能ではないかと目論んでいる。局所的に擬微分方程式を扱うことになると考えられるが、これについても、他の共同研究で培われた手法を参考にすることが肝要となるであろう。 さらに磁場付きシュレディンガー作用素の強磁場極限に関する共同プロジェクトについても、まずは多次元への拡張から取り組むことが第一歩となると考えている。
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Causes of Carryover |
毎年開催している「偏微分方程式姫路研究集会(Himeji Conference on PDEs)」とともに隔年開催しているサマースクール「Lectures on Semi-Classical Analysis」を、2018年度ではなく、2019年度に開催することになったというのが大きな要因である。 実際、2019年6月11日から13日にかけて、ポアンカレ研究所(パリ)にて、「Lectures on Semi-Classical Analysis」の特別版として、国際研究集会「Quantum Resonances and Related Topics」( https://qrrt2019.sciencesconf.org/ )を開催し、講演者の旅費・講演謝金等に充当する予定である。
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Research Products
(9 results)