2020 Fiscal Year Research-status Report
Semiclassical analysis of sprectral and scattering problems on energy-level crossings
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18K03349
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
渡部 拓也 立命館大学, 理工学部, 准教授 (80458009)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | エネルギー交差 / 準古典解析 / レゾナンス / 遷移確率 / 完全WKB解析 / 準古典超局所解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題では、主に次の2つのテーマ:「エネルギー交差に係わる量子共鳴の準古典分布」及び「エネルギー擬交差間の遷移確率の断熱極限」について研究を行った。前者は藤家氏(立命館大学)Martinez氏(ボローニャ大学)、また後者はZerzeri氏(パリ13大学)との共同研究であり、それぞれ目標としていた問題について、結果を得ることができ,双方共に学術雑誌に投稿し掲載されるに至った。 前者については、我々の先行研究の手法を適用するだけでなく、その手法だけでは不十分な部分を、超局所解析を用いることにより解決した。一般に量子共鳴(レゾナンス)は、シュレディンガー作用素に対応する古典軌道のなす捕捉軌道によって特徴付けられるが、この研究では、連立系特有の"擬捕捉軌道"といったもので特徴付けられることを明らかにした。この結果から,連立系ならではの擬捕捉軌道を有するモデルについて、新たな研究の方向性を得た。 後者については、時間依存シュレディンガー方程式をモデルとした連立の常微分方程式系について、断熱パラメータのみならず、擬交差のギャップも小さなパラメータとした2パラメータ問題を考察した。遷移確率の断熱極限には、既存の結果が多く知られているが、2パラメータ問題として、断熱極限が破綻するほど擬交差のギャップが小さい場合の問題については未解決であった。この研究では複数回擬交差が起こる場合の遷移確率について、ひとつの結果を得ることに成功し、論文として纏め、学術雑誌に投稿し、掲載される予定(2021年6月)である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
自己点検評価として「おおむね順調に進展している。」と判断した理由は、主要な研究課題「エネルギー交差に係わる量子共鳴の準古典分布」及び「エネルギー擬交差間の遷移確率の断熱極限」のそれぞれにおいて、目標としていた結果に到達し、学術雑誌の掲載による論文発表に至ったということである。 残念ながら、この最終年度はコロナ禍により、研究会の開催が少なく、研究発表の機会に恵まれなかったが、論文執筆に注力したことを鑑みて、研究課題が進展したと評価したい。 また、上記の2つの課題の進展から、次のプロジェクトが進展しつつある.前者は、単井戸ポテンシャルと二重井戸ポテンシャルの生成する3つ組の固有値に関する研究、後者は、接触交差するエネルギー準位から生じる擬交差モデルに対する研究というもので、本研究課題の成果がこれらの新たな研究に繋がったという意味でも、ポジティブな評価に値すると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
今回の研究課題のひとつである「エネルギー交差に係わる量子共鳴の準古典分布」は、シュレディンガー作用素の連立版を扱ったものである。この研究で提案した解析手法を用いて、共同研究者である藤家氏とAssal氏は、単独の二重井戸に対応する2つの対称な単井戸ポテンシャルをもつ連立版のシュレディンガー作用素を考察し、固有値の分裂現象を解析した。また樋口氏は、量子共鳴(レゾナンス)の非存在について、相空間上の擬捕捉軌道の観点から論じる成果を得た。これまでの一連の研究から、Assal氏、樋口氏とともに、三重井戸に対応する単井戸と対称な二重井戸の生成する3つ組の固有値の分裂現象について共同研究を行う。 また、もうひとつの研究課題「エネルギー擬交差間の遷移確率の断熱極限」に関しては、Zerzeri氏とともに、接触交差するモデルについて、同様の問題を考察する。断熱パラメータが擬交差ギャップを表すパラメータに比べ非常に小さいときは、自身の先行研究により完全WKB解析で明らかになっているが、パラメータの関係が逆転する場合については、未解決である。これについて既存の結果はないが、もうひつの研究課題の方で得られたアイデアを援用することで解決できると期待している。
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Causes of Carryover |
国際共同研究として、いくつかのプロジェクトが進行中で、そのための旅費及び招聘費としての使用を予定していたが、コロナ禍による渡航自粛・渡航制限により、不使用になってしまったため。 また、例年3月上旬に開催している偏微分方程式姫路研究集会は、オンラインによる開催となり、オンライン上の研究討論スペースの使用料といったハード面の使途はあったものの、こちらも講演者に用意していた旅費などソフト面の使途がなくなり、大幅な残額が生じることになったため。
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