2021 Fiscal Year Research-status Report
特異性を伴う混合型非線形楕円型境界値問題における非自明解集合の大域的構造の研究
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18K03353
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Research Institution | Ibaraki University |
Principal Investigator |
梅津 健一郎 茨城大学, 教育学部, 教授 (00295453)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 非線形楕円型境界値問題 / 劣線形 / 正値解 / ロジスティック境界条件 / 一意性と多重性 / ラプラス方程式 / 沿岸漁業収穫モデル |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、劣線形(sublinear)型の非線形項をもつ非線形楕円型境界値問題を研究した。そこでは次の2つの研究テーマに取り組んだ。
(1) 符号不定係数を伴うロジスティック非線形項を備えた境界条件を考える。ラプラス方程式をこの非線形境界条件のもとで考察し、ある臨界条件に近い状況にあるときパラメータに依存した正値解集合の振る舞いを特徴付ける。 (2) coast fishery harvesting 効果を持つ非線形境界条件のもとでロジスティック楕円型方程式を考察し、パラメータに依存した正値解集合の振る舞いを特徴付ける。特に正値解の存在と一意性および多重性を研究する。
(1)の研究については、G. F. Madeira, A. S. do Nascimento の一連の結果(2009, 2011, 2016)を補完する成果を得ることができた。さらに、ある臨界条件に近い場合に、パラメータに関する正値解の大域的一意性が成り立つことを示し、その場合において正値解集合をある意味完全に特徴付けた。符号不定係数を伴うロジスティック非線形項については従来の結果から正値解の多重性が期待されることに注意する.(2)の研究については,D. Grass, H. Uecker, T. Upmann (Optimal fishery with coastal catch, Nat. Resour. Model. 32 (2019), e12235, 32 pp) によってモデル化された、沿岸での漁業収穫を表す非線形境界条件を考察した。境界条件に備わる収穫効果パラメータ(harvesting effort)に依存した正値解集合の構造を調べて、得られた成果を現実の漁業収穫問題に実装した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
テーマ(1):符号不定係数を伴うロジスティック非線形項は、場合によっては正値解の多重性が期待される。本研究では、符号不定係数がある臨界条件に近い状況に置かれるとき正値解の一意性を証明した。線形化安定性の意味で任意の正値解は不安定である。つまり、線形化固有値問題の第1固有値は負である。そして、臨界条件に近いときに第2固有値が正になることを示した。このことにより、フレドホルム交代性に基づき、対象の正値解に対して陰関数定理が適用可能となり、先験的結果を援用して一意性を示した。このアプローチは、前年度に行った、Kaufmann、Ramos Quoirin とのロバン境界条件のもとでの共同研究から発想を得ている。南大阪応用解析セミナーにおいて成果発表を行った。
テーマ(2):coast fishery harvesting は吸収効果を持つ劣線形境界条件でモデル化される。同時に、この非線形項は convex 型であり、領域内部のロジスティック非線形項が concave 型であることから、研究対象の境界値問題は concave-convex 混合型の非線形性を備える。考察の結果、領域の大きさにより正値解集合の構造が激変することがわかった。領域が比較的大きいとき(呼応するDirichlet固有値問題の第1固有値が比較的小さい場合)、いかなる収穫効果のもとでも正値解が存在することが示された(この正値解は安定であることが示唆される)。他方、領域が比較的小さいとき、十分大きい収穫効果のもとでは正値解の非存在が示され(ゼロ解が安定)、小さい収穫効果のもとでは正値解の多重性が示された(正値解のひとつは安定)。後者の場合、ゼロ解は安定であることが示唆され、いわゆるアリー効果の現象が期待される。
(1)、(2)ともに、得られた研究成果は論文にまとめて国際学術専門誌に投稿中である。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き沿岸漁業収穫モデルを考察する。まず、正値解の安定性の考察が不十分であるため、期待されるアリー効果の出現について解析的な評価を進める。次に、今年度の研究ではある臨界条件での考察を対象外としているため、この条件下での正値解集合の研究を開始する。非臨界条件の場合の手法の多くが臨界条件では適用できないため、新しいアプローチの開発が必要である。主に分岐解析により考察することを計画している。しかし、研究遂行に困難が生じた場合は、1次元モデルを考察して数値計算による結果を援用することも念頭に置いている。
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Causes of Carryover |
前年度に引き続きコロナ禍のため、研究成果発表を目的とした国内出張、外国出張を行うことができなかった。そのための支出を予定していた旅費を執行することができなかった。以上が次年度使用額が生じた理由である。本研究課題は令和3年度が最終年度であったが、以上の理由により令和4年度まで期間延長を認めていただいた。令和4年度において、コロナ禍の状況次第であるが、成果発表のための旅費に使用する予定である。また、合わせて、内外におけるオンライン研究活動のための機器を整備する予定である。
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Research Products
(6 results)