2019 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
18K03363
|
Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
菱田 俊明 名古屋大学, 多元数理科学研究科, 教授 (60257243)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | 非圧縮粘性流 / Navier-Stokes方程式 / 外部問題 / 漸近展開 / 発展作用素 / 長時間挙動 / 安定性 / 制御 |
Outline of Annual Research Achievements |
3次元空間内でのself-propelled条件を満たす物体の運動とその周りでの流体の運動の相互作用を考察した。ただし、物体に固定した座標系で見て時間定常的な運動を考える。定常的なself-propelled条件は、物体が流体におよぼす力とトルクがいずれも消えていることを表している。剛体の並進速度と回転角速度を小さく与えるときに、それを達成する境界上での制御関数の存在はすでに研究代表者の研究により知られていたが、本研究では2通りの属性をみたす(境界上で指定された小さなportion上に台をもつ、あるいは境界上の各点で接している)制御関数の内で、物体にかかる抵抗を最小化する最適制御の存在を示し、さらにその最適制御が満たす必要条件を求めた(専門誌で査読中、またarXiv:2003.03991で公開中)。また、2次元平面上で一様に回転する剛体の外部でスケ一ル臨界減衰する定常Navier-Stokes流の無限遠での漸近展開の主要項を決定した(専門誌で査読中、またarXiv:1809.03164で公開中)。再び空間3次元の問題へ戻り、上記の最適制御解の安定性を考察するとき、剛体の運動が時間によって変動するときの非自励な線型化方程式の初期値問題の解の長時間挙動が重要な鍵となる。その解を実現する発展作用素の0階の減衰評価は研究代表者の研究により知られていたが、本研究では空間1階gradientの減衰評価を証明した(Arch. Rational Mech. Anal.掲載決定)。その成果はStokes半群やOseen半群を含む自励系に対する結果をすべて包括している。その応用の一つとして、流体中をスピンはせずに振動する剛体周りでの定常解のattainabilityを証明した(専門誌で査読中、またarXiv:2001.07292で公開中)。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
非圧縮粘性流体の中の物体の運動の制御と安定性の数学的解明、また関連する諸問題の数学的基礎を与えることを研究目的とする。空間3次元の剛体のself-propelled運動の境界上での制御の問題について、少なくとも2種類の制御方法が知られていたが、制御方法(制御関数の属性)をひとつ定めるとき、物体にかかる抵抗最小化の意味での最適制御の存在や特徴付けは解かれずに残っていた。それが得られたことは成果であった。特に最適制御の必要条件の導出方法は、よく知られたLagrangeの方法のここでの議論の枠組みにフィットする形での洗練であり、そのやりかた自体も同種の最適制御問題への展望を与えるものである。また、その最適制御解の安定性やattainabilityを論じるうえで、剛体の並進速度と回転角速度が時間に依存する場合の線型化方程式の初期値問題の解析が欠かせない。特にその時間減衰評価を外部領域で求めることは自励系であっても難しい問題であるが、ここで考察するのは非自励系であり、通常のスペクトル解析は働かない。この系のエネルギ一関係式を活用した0階の減衰評価は研究代表者の以前の成果であるが、その0階に対する知見を活かした1階微分の減衰評価は、結果および証明方法のいずれも新しく、Stokes半群とOseen半群、および回転も伴うときのそれらの半群の評価をすべて再現するとともに、幅広い応用がある。典型的な応用はstarting問題への応用である。starting問題とは、初期時刻で静止している物体が運動し始めて、有限時間後に一様な運動に至るときのその周りでの流れの長時間挙動を問うものであるが、最終的な物体の運動が一様並進という最もシンプルな場合を除いて、上記の発展作用素による解析が本質的に必要である。スピンなしの振動や一様回転は、その重要な例である。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後の研究で最も重要な主題は、ここまで述べてきた物体と流体の運動の相互作用の初期値問題の解の長時間挙動を求めることである。ただし、空間次元は3次元とする。小さい初期値に対して、時間大域解の存在が自乗可積分空間の枠組みで知られているが、それは有限時間爆発を防ぐような解のアプリオリ評価によるもので、解の長時間挙動には何も答えていない。この主題について、最近フランスのTucsnakのグル一プによる重要な進展があった。彼らの着眼は、流体の運動方程式と剛体の運動方程式を同時に捉えるfluid-structure半群の減衰評価の導出とその応用であり、部分的な成果を得た。ここで部分的と述べたのは、物体を球体に限定したためである。彼らのアイデアは興味深いが、弱点は座標変換後に回転運動がもたらす重要な項を上記のfluid-structure半群からの摂動として扱えないことであり、球体であればその項が現われないのである。ここまで述べてきた本研究の成果は、まさにこの困難を正面から取り扱ったものであり、物体の形状が何であっても、与えられた並進速度と回転角速度が時間変数に関して有界かつヘルダ一連続である限り、上記の項を伴う線型化作用素の生成する発展作用素の減衰度を決定した。その結果それ自体でなくともその論証における考え方は、上記のTucsnakらによる最新の成果がのりこえられなかった困難をどうやって克服すればよいのか、その方法を示唆している。これの実行、すなわちfluid-structure発展作用素の減衰評価の導出とその応用がまずやるべきことである。その先に本研究によって得られた最適制御解の安定性の問題があるが、物体のself-propelled運動によって、流れの空間無限遠での減衰が良いので、上記の発展作用素が支配的であると期待できる。
|
Causes of Carryover |
(理由)予定通りに出張と海外渡航を行ったが、図書等の物品を購入しなかったので、残額が出た。また、海外渡航については、当初予定と異なり、主催者側がその後に資金を獲得して現地滞在費を支出してくれた(航空機だけ当科研費の支出となった)ことも、残額が出た理由である。 (使用計画)2020年度について、夏にプラハでの国際会議に出席する予定であったが、新型コロナウイルスの影響で1年延期となった。その他の出張予定について、特に秋以降のものは、現時点で開催できるかどうか未定である。すべて延期となる場合には、図書の購入を検討する。
|
Research Products
(10 results)