2018 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
18K03364
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Research Institution | Nagoya Institute of Technology |
Principal Investigator |
鈴木 政尋 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (30587895)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 境界層 / 放電 / 火花電圧 / 安定性・不安定性 / 分岐解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
人工的につくられるプラズマは,核融合,半導体デバイス用シリコンウェハーの微細加工,空気清浄・浄水,殺菌などに広く利用されている.こうした用途では,放電を用いてプラズマを発生させ,そのプラズマが金属やシリコンなどに接触する周囲には境界層が現れる.本研究では,プラズマ境界層の形成,放電発生の基礎過程に関する数学理論の構築を目指す.プラズマの運動や放電を記述する数理モデルとして,それぞれ非線形偏微分方程式が頻繁に用いられる.これらの方程式に対して物理的に妥当な初期値境界値問題を定式化し,それらの解の挙動を解析することにより,プラズマ境界層の時間大域的な形成過程,放電が発生して持続するための電圧の閾値などを解明する. 平成30年度は,放電発生の基礎過程の解析に注力した.絶縁体である空気などの気体中に,一対の電極をおき徐々に電圧を上げていくと,突然,絶縁の状態から伝導の状態にかわり大電流が流れる.これが放電であり,放電の経路に沿ってプラズマが発生する.1900 年頃 Townshend は,時間を離散化させるなどの大胆な簡略化の末,放電が発生し持続するための電圧の閾値 (火花電圧) を導出した.近年では,Morrow が放電を記述するモデル方程式を提案し,広く数値実験に利用されている.本研究では,この Morrow の方程式を用いて,火花電圧の再導出することに成功した.さらに,放電の様子を詳しく調べるため,非自明解の分岐解析を行った.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
Morrow 方程式による火花電圧の導出については,当初予定していた通りの結果が得られた.Morrow 方程式の初期値境界値問題は,正イオンと電子の密度が零となる自明な定常解を持つ.Morrow 方程式の解が,時間経過とともに自明定常解に収束すれば放電は持続せず,逆に収束しなければ放電が持続すると定義できる.Townshend 理論では,放電が発生し持続するために必要な電圧を火花電圧とよぶ. これに従えば,電圧をパラメータとしてみて自明定常解が時間的に安定から不安定へと変化する臨界電圧を,Morrow 方程式の火花電圧と定めるのが妥当だろう.平成30年度は,この火花電圧を求めることに成功した. さらに研究を発展させ,火花電圧付近において,非自明な定常解が分岐することも示した.また非自明解の大域的分岐図も得ることができた.具体的には,非自明解は電子・イオン密度が発散する,または歪火花電圧において自明解に戻るかの二択になることを証明した.
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Strategy for Future Research Activity |
令和元年度は、プラズマ境界層(シース)の形成の解析に注力する.シースは定常的な境界層と観測されるため,数学的には時間的に安定な定常解であると理 解できる.これまでに代表者は半空間上で Euler-Poisson 方程式に定常解が存在するための必要十分条件を導き,さらにプラズマ物理学で提案されている Bohm 条件下で定常解の安定性を証明している.一方,シースへ至る境界層の発展過程は明らかにされていない.その解明への第一歩として,Han-Kwan 等は Debye 長が十分小さい場合に,EP 方程式の時間局所解は外部解と内部解の和によって近似できることを示したが,EP 方程式の初期値を外部解と内部解の和で過剰に近似している.この仮定は,初期時刻において境界層が既に形成されていることを意味する. 本研究では,初期値を外部解と内部解の和(近似解)で近似せず, Debye 長が小さい場合に,半空間における EP 方程式の初期値境界値問題の時間大域解が近似解によって近似できることを示す.ここで,Debye 長は小さな値であり,その小ささを仮定することは 物理的に妥当であろう.また,内部解がシースの形成過程を表現する.
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Causes of Carryover |
平成30年度は名古屋工業大学で設けている在学研究員制度により,11ヶ月間,米国へ長期出張していた.この間,米国から帰国および渡航することができず,設備,成果発表,打合せなどに計上していた経費に繰越金が生じた.この繰越金は,次年度以降の設備費・旅費とする.
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Research Products
(10 results)