2019 Fiscal Year Research-status Report
Semiclassical Analysis of Schroedinger equations
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18K03384
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
藤家 雪朗 立命館大学, 理工学部, 教授 (00238536)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | シュレディンガー作用素 / エネルギー交差 / 固有値の漸近分布 / 量子共鳴 / 超局所理論 / WKB解 / directed cycle |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度の研究は、大きく分けて次の2つである。 (1)Marouane Assal (チリ カトリック大学)と共同で、連立の一次元シュレディンガー作用素の固有値の、半古典極限における漸近分布の研究を行った。連立のシュレディンガー作用素の研究において、通常のスカラーのシュレディンガー作用素には現れない最も大きな難しさは、複数のポテンシャルが交差することによって起こる相互作用である。この研究では、2つのシュレディンガー作用素のポテンシャルがともに単井戸型であり、1点で交差すると仮定した時、その交差エネルギーレベルより高いエネルギーレベルでの固有値の漸近分布を調べた。この場合、各々のスカラー作用素が相空間上に作る周期軌道(ハミルトン流)は2点で横断的に交わる。この2つの閉曲線により、新たな閉曲線が作られる。この閉曲線が上記相互作用を決定することがわかった。特に2つのポテンシャルが対称である時の固有値のスプリッティングはこの閉曲線に沿う作用積分によって漸近挙動が与えられることを示した。 (2)Jean-Francois Bony, Thierry Ramond, Maher Zerzeriとの共同研究で、量子共鳴が摂動に対して不安定である様な例があることを見出した。従来の研究では、シュレディンガー作用素に自己共役なオーダーhの摂動を加えても、その量子共鳴の虚部(対応する共鳴状態の寿命の逆数を表す)は不変である様な例しか知られていないが、この研究で、オーダーがhよりさらに小さい自己共役な摂動に対し、量子共鳴の虚部がオーダーhで変化する例を構成することに成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当研究課題の新しい方向として、連立のシュレディンガー方程式の固有値、量子共鳴の半古典極限における漸近分布の理論の研究をクローズアップしたが、2019年度の研究で、対称な井戸を持つ連立のシュレディンガー方程式の固有値のスプリッティングに、相空間上のdirected cycleが本質的に関わることが明らかになった。この研究を端緒として、共同研究者のみならず、研究室の学生を含めて様々な研究課題が生まれた。このdirected cycleの影響を最も大きく反映する問題として、それぞれのスカラーのシュレディンガー作用素に対するハミルトン軌道が非捕捉的である様な場合に共鳴が現れるかどうかという問題を設定した。博士課程の学生である樋口は、この様な場合の量子共鳴の非存在領域について顕著な結果を得た。非捕捉的なスカラーのシュレディンガー作用素は、h log h のオーダーの虚部を持つ様な量子共鳴を持たないことが知られているが、樋口は連立の場合、h log h のある定数倍以下の虚部を持つ量子共鳴を持たないことを示した。この定数はdirected cycleによって決まる幾何学的な定数である。この様に新たな研究が活発になっており、その意味で当初の目標は概ね順調に達成されつつあると自己評価している。
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Strategy for Future Research Activity |
連立の一次元シュレディンガー作用素についてAssalと共同で行った固有値の研究、それ以前にMartinez, 渡部と行った量子共鳴の半古典漸近分布の研究を通じて、それぞれのスカラーのシュレディンガー作用素のハミルトン流が交差することによってできる新たな閉曲線(directed cycle)が、これらの問題において本質的な役割を果たすことがわかってきた。研究室における今後の一つの課題は、まず上記の樋口の設定において、h log h の定数倍の虚部を持つ量子共鳴の存在を示すことである。その方法として、 J.-F.Bony, T.Ramond, M.Zerzeriとの共同研究で、ホモクリニックな軌道が生成する量子共鳴の存在を示すのに用いた超局所的な方法や、Martinez, 渡部との共同研究で用いた連立シュレディンガー方程式の解の構成方法を用いて証明ができると確信している。 また一方で、実の相空間では交差の起こらない場合のトンネル効果の研究もAssal, Martinezと開始する。一方のポテンシャルが単井戸型で、もう一方が非捕捉的とすると、単井戸型ポテンシャルが生成する固有値が相互作用によって共鳴として現れることが予想されるが、その虚部は、ポテンシャルの高さがない場合、指数的に小さいと予想される。この指数的漸近挙動は、ポテンシャルに解析性を仮定し、複素空間におけるエネルギー交差の問題として捉えれば、これまでの研究の知見を下に明らかにできると期待している。 連立のシュレディンガー作用素のスペクトルの問題は、エネルギー交差の問題のために統一的な理論の構築はいまだになかなかできていないが、一次元に限っては、上記の様に一般論の構築に向けた研究のスタートが切れたと感じている。
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Causes of Carryover |
2019年度の科学研究費を拠出を予定していた研究集会Himeji Conference on Partia Differential Equations を、新型コロナ感染拡大防止のために中止したため、本年度それに代わる研究集会の開催資金として繰り越した。
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